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【コラム】戸塚啓

神戸 現れた変化の兆し

[ 2012年6月8日 06:00 ]

戸塚啓氏著<神戸の西野朗監督フォトブック『攻め切る…指揮官西野朗の覚悟』(アートヴィレッジ刊、本体1600円)>
Photo By 提供写真

 ああっというため息は、最後まで途切れることがなかった。6月6日に行なわれたナビスコカップの大宮戦で、西野朗監督率いる神戸は0対1の敗戦を喫した。就任初戦のリーグ戦に続く黒星である。

 ミスの多い試合だった。大宮も多かったが、神戸はさらに多かった。自陣での危ういミスが、そうした印象を強めたのかもしれない。西野監督はこれまでのベースだった堅守速攻を生かしつつ、しっかりとつないでいくサッカーをチームに植えつけようとしている。だが、見ているこちらが冷や汗をかくようなミスが、序盤から繰り返された。失点は少しばかり不運だったところもあるが、神戸に勝てる要素を見つけるのは難しかった。

「トライする意識がトレーニングでは出ていて、僕自身もかなり期待していた。もう少しやれる感じはあったが、残念ながら今日はいいところが出なかった」

 試合後の記者会見で、西野監督は歯痒さを滲ませた。だからといって、落胆や失望に包まれているわけではない。就任が発表された会見では、こんな話をしている。

「チームを、選手を一変させる魔法を持っているわけではないし、サッカー自体もそう簡単には変化させられないと思う。そういう意味での難しさはある」

 困難は想定内なのである。むしろ、闘志をかき立てられるはずだ。中位に甘んじていたチームを押し上げていくタスクは、かつて率いた柏とガンバ大阪に共通する。これまで培ってきた経験を、存分に生かすことができるのだ。

 選手の反応はいい。大宮戦後のミックスゾーンには、意欲的な言葉が溢れていた。
「練習ではすごいボールがまわっていたし、積極的にやろうとしてのミスだった。確かにもったいないミスは多かったけど、一回ミスっても続けていくべきで、ミスを恐れたらいままでと一緒ですから」

 チームの核である大久保はこう話す。左サイドバックの相馬もつとめて前向きである。

「いままでは、チャレンジするボールを入れていなかった。失うことを恐れずに、パスを出すようになったのは進歩。そこのクオリティを上げれば。まだミスは多いけど、このままやっていけば得点チャンスはできる。その過渡期にあると、僕らは思っている。これから変わっていけるんだっていう空気を、普段の練習から感じることができているし」

 変化の兆しは、すでに現われている。(戸塚啓=スポーツライター)

※戸塚啓氏の最新刊が6月18日に刊行される。神戸の西野朗監督のフォトブック『攻め切る…指揮官西野朗の覚悟』(アートヴィレッジ刊、本体1600円)で、清水和良氏の写真80点も掲載されている。西野監督をよく知る山本昌邦氏、北嶋秀朗、明神智和のインタビューも収録。

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