【コラム】戸塚啓

川口能活 選手とともに喜び、悲しみに寄り添う指導者へ

[ 2018年12月4日 19:30 ]

<相模原・鹿児島>引退セレモニーでゲスト登場したJ1名古屋・GK楢崎正剛(左)から花束を贈られたGK川口能活
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 日本代表として4度のワールドカップでメンバー入りした川口能活が、12月2日のJ3リーグ最終節をもって現役を退いた。

 横浜マリノス(その後横浜F・マリノスに)、ポーツマス、ノアシェラン、ジュビロ磐田、FC岐阜、SC相模原と、国内外の6つのクラブでプレーし、1997年から2010年まで日本代表に名を連ねた。彼の足跡を漏れなくフォローしたら、膨大な文字数の原稿になるだろう。プロ25年のキャリアには、溢れるほどのトピックが詰まっている。

 相模原のホームスタジアムで行われた鹿児島とのリーグ最終節で、川口は3か月ぶりに先発した。今シーズン通算でも6試合目の出場である。

 「久しぶりの公式戦だったので、正直、不安はありました」と川口は言う。対戦相手の鹿児島は、J2昇格を決めた好チームだ。1万2千人の観衆の思いをまとめれば、川口の守備機会を数多く見たいものの、果たして無失点で乗り切れるだろうか、といったものだったに違いない。期待と不安が入り混じっていた気がする。

 ゲームの主導権は、序盤から鹿児島にあった。アウェイチームが長くボールを保持するが、川口の守備機会は多くない。GKからすると、いまひとつリズムを作りにくい展開だ。

 さすが、と言うしかない。

 20分、最初の守備機会で至近距離からのシュートを確実に弾き出す。後半にはDFラインの背後を突いた相手FWと1対1になるが、素早く間合いを詰めてシュートコースを狭めた。シュートストップ後の身体の立て直しも、全盛時と変わらないぐらいに機敏だった。

 ピンチがなかったわけではない。だが、観衆が思わず眼をつぶりたくなるような場面で、相手攻撃陣はことごとくシュートをミスした。鹿児島が放った13本のシュートは、吸い寄せられるように川口の胸に収まるか、枠を逸れていったのだった。

 実は試合中に、左足の太腿裏に張りを覚えたという。それでも無失点で乗り切り、今シーズン自身初のクリーンシートを達成する。相模原は1対0で勝利した。

 クラブの代表を務める望月重良は、「さすがだよね!持ってるよね!すごいよね!」と感嘆詞を連発した。「普通に考えたら、今日の試合は負けてもおかしくない展開ですよ。それを勝ち試合に持っていくんですから。いやあ、すごかった」と、高校時代から知る後輩の活躍を讃えた。

 アトランタ五輪における“マイアミの奇跡”やワールドカップ出場、さらには2000年と04年のアジアカップ連覇など、川口は何度となくスポットライトを浴びてきた。同時に、数多くの苦難も味わってきた。辛酸も舐めた。人知れず涙をこぼしたこともある。

 国内外で試合に出られない時期も過ごした。キャリアの晩年には、長期離脱を強いられるケガもした。J1の優勝争いだけでなく、残留争いも経験した。入れ替え戦のピッチにも経った。J1からJ2、J2からJ3と、カテゴリーを下げて現役を続けた。

 何かを大きなものを得るための戦いだけでなく、負ければすべてを失いかねないようなゲームにも、川口は関わってきた。それらすべての経験を血肉として、25年にも及ぶキャリアを積み上げていった。

 川口なら選手とともに喜び、悲しみに寄り添う指導者になれる。「余力を残しての」セカンドキャリアが、それだけに楽しみなのだ。(戸塚啓=スポーツライター)

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