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【コラム】西部謙司

ペップとフォーメーション

[ 2016年2月20日 05:30 ]

マンチェスターCのペジェグリーニ監督(右)とバイエルンMのグアルディオラ監督
Photo By AP

 バイエルン・ミュンヘンのジョゼップ・グアルディオラ監督は、一種の奇策家として知られている。最近やっているのが、サイドバックを攻撃のときにボランチに移動させる形だ。右のラームと左のアラバは、ビルドアップの際にアンカーのシャビ・アロンソの左右を固めるように中央へ移動する。そして、そのままMFとしてプレーする。

 ラームとアラバの動き方は通常のサイドバックとは違っている。普通、サイドバックはタッチラインに沿って上下動するが、ラームとアラバは中央へ移動する。こうした普通とは違うポジショニングをするので、「“ペップ”のサッカーにはフォーメーションがない」 と言われたりするわけだ。

 しかし、よく見ればフォーメーションはちゃんとあることがわかる。キックオフ時の4-3-3のフォーメーションや、サイドバックの通常の動き方という固定観念があるから、それから外れた動き方をすると「フォーメーションがない」と感じてしまうのだろう。だが、実際にはフォーメーションが攻撃と守備で変わっているだけなのだ。

 例えば、4-3-3が基本フォーメーションだとして、ずっと位置関係が変わらないままプレーするものだと考えている人は、今時少ないだろう。GKからボールをつなぎたければ、センターバックは左右に開き、サイドバックはポジションを上げ、開いたセンターバックの間にMFが下りてくる…こうしたポジションの変化は多くのチームが行っている。もうそういうものだと思っているので、わざわざフォーメーションが攻守で変化すると言わないだけだ。ウイングが中へ入ってサイドバックが追い越していったり、MFがセンターバックの横へ下りて全体の位置どりが変化しても、それは4-3-3の状況に応じた変化として認識する。

 ところが、サイドバックが2人そろってボランチに変化するという予想外の動き方をされると、フォーメーションが変化していると認識できない。見たことがないので、選手の個人的な判断で動いているか、全く違う概念からそうなっているのだろうと思ってしまう。4-3-3が2-3-2-3に変化しただけとは捉えられなくなる。

 ペップがこうした理由は、対戦相手のプレスのかけ方、バイエルンの先発選手の特徴、その両方にあると考えられる。いろいろと予想外のことをやる監督だが、その目的はより確実にボールを運び、より強力にフィニッシュへ結びつけることに集約されているのが共通点だろうか。

 ちなみに、この2-3-2-3のフォーメーションはWMが定着する以前の定番だった2バックシステムそのものといえる。もちろんペップは2バック時代のサッカーは見たことがないに違いないし、選手も同じだ。ただ、攻守における位置どりの変化を説明するときにフォーメーションがこうなると説明しているはずである。ラームとアラバの動きは規則的なので明らかに指示があってのこと。指示をするなら、フォーメーションで説明するのが選手にも一番わかりやすい。もちろんフォーメーションがサッカーをするわけではないが、共通言語としては依然として便利なのだ。(西部謙司=スポーツライター)

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