【コラム】西部謙司

テロの標的になったサッカー

[ 2015年11月28日 05:30 ]

中止となった国際親善試合ドイツ対オランダ
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 パリの同時多発テロの標的の1つが、フランス対ドイツが行われていたスタッド・ドゥ・フランスだった。

 サッカーのスタジアムは被害に遭うことも多く、第二次大戦のときにはマンチェスター・ユナイテッドのホームであるオールドトラフォードが爆撃で破壊されている。過去にも未遂に終わったスタジアムを狙ったテロはあった。しかし、今回のケースは街中と同時的に起こっていて無差別な印象が強い。

 現場の1つは、3年ほど住んでいたアパートのすぐ近くだった。とくに象徴的な建物などなく、日常的な生活が営まれているごく普通の場所である。どちらかといえば、アラブ系も含むさまざまな人種が行き交う地域、外国人もたくさんいる。特定の人種や宗教を狙ったとは考えにくい。

 事件の後、世界中の試合で黙祷が捧げられ、ヨーロッパの各国リーグでは試合前にフランス国歌が流された。そんな中、シリア代表のファイル・イブラヒム監督はテロへの憎悪を表明する一方で、こう話している。

 「我々はフランス人のために30秒間立ち上がっているが、シリアで殺された人たちのためには誰も1秒も立ち上がらない」

 今回のテロはシリア空爆への報復といわれている。その間にも空爆は続いていて、いわゆる報復の連鎖だ。ただ、スタジアムの人々がフランス人だけのために立ち上がったのではないと思う。

 現在、ヨーロッパのクラブチームは多人種編成が当たり前になっている。イスラム教徒を含む、さまざまな人種と宗教が1つのチームに共存する。代表チームも移民系の選手が増えた。観衆も多人種多宗教。人種、言語、習慣、宗教を超えて平然と共存しているサッカー界だからこそ、テロの標的になったのかもしれない。ハノーファーでのドイツ対オランダはテロの危険があるという理由で中止になった。サッカーがテロの標的になっている以上、サッカーに関わる人々は明確にテロに反対する意思を示す必要があったといえる。(西部謙司=スポーツライター)

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