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【コラム】西部謙司

バランスと3-4-3

[ 2013年6月7日 06:00 ]

5月30日のブルガリア戦で「3―4―3」を試した日本代表
Photo By スポニチ

 日本代表が最初の交代カードを切ったとき、残り時間はおよそ10分だった。FW前田遼一と交代したのはDF栗原勇蔵、フォーメーションも3-4-3に変化した。FWに代えてDFだから、そのまま解釈すれば守備固めである。しかし、ザッケローニ監督の意図は少し違っていたようだ。

 「本田のペースが落ちたときに交代を考えたが空中戦のために残した。長友を1つ前に上げることで総力ではプラ スになる」(ザッケローニ監督)

 終盤にオーストラリアが放り込んでくると予想した。日本は高さで劣勢なので、セットプレーでは身長が高い本田にいてほしい。さらに空中戦に強い栗原を投入したので、高さ対策は尽くしたことになる。前田が退いた1トップには本田を上げ、左サイドバックの長友をMFに上げたので攻撃力も落ちない、そういう説明である。しかし、腑に落ちないところがある。

 高さを加えたいのなら、前田と交代するのはハーフナーで良かったはずなのだ。流れの中の攻撃でも高さ対策をしたいのなら、内田と栗原を交代させて今野をサイドバックに移動させれば良い。実際、85分に内田をハーフナーに代えてからはそうなっている。

 結局、3-4-3をやりたかったのではないか。準備試合のブルガリア戦では3-4-3を試し、いままでに比べればマシな出来だった。サイドに数的優位を作れるシステムなので攻守に相手をハメ込むのに向いている。残り10分で一気に流れを引き寄せたい、そういう意図ならわかる。

 ところが、3-4-3への変更はむしろ日本の攻勢に水を差すような形になった。これは結果論だが、失点は3-4-3だった5分間に喫している。

 オーストラリアに先制されて残り5分、日本は前線に高さが必要になったのでハーフナーを投入し、残り1枚も攻撃カードの清武。フォーメーションはたった5分で4-2-3-1に戻った。1点を追っての最大限攻撃的な形がこれだとすれば、やはり3-4-3は守備的な狙いだったと考えられる。

 ザッケ ローニ監督に言わせれば「バランス」なのだと思う。サッカーは攻守が一体となったゲームであり、守備の強化は攻撃につながり逆もまたしかり。まだ0-0の状況での3-4-3は攻守のバランスを保ったうえでのテコ入れ策だった。ただ、選手たちに「バランス」というメッセージがどこまで伝わったかは疑問だ。そもそも「バランス」では、あの時間帯に選手の士気は高まらない。

 ザッケローニ監督は就任当初から「バランス」を強化ポイントにあげていた。オーストラリア戦後も、「ピンチにならずにチャンスを作れるようになりバランス力が上がった」とチームの成長について語っている。しかし、もし0-1のまま負けていたら、むしろ3-4-3への変更がバランスとリズムを壊したとして批判が 集中していただろう。

 イタリア人監督と日本(選手もメディアも)の間には、まだ少しの感覚のギャップがあるような気がした。(西部謙司=スポーツライター)

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