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【コラム】金子達仁

“持たざる者”に厳しい欧州の移籍市場

[ 2015年9月17日 05:30 ]

ボルフスブルクからマンチェスター・シティーへ移籍したベルギー代表MFデブルイネ
Photo By AP

 わたしが中学生だったころ、W杯は16カ国で行われていた。欧州のクラブナンバーワンを決める大会は、最初から最後までトーナメント形式で行われていた。欧州の国々はそれぞれが独自の通貨を持ち、国境では厳密なパスポート・コントロールが行われていた。

 ご存じの通り、いまやW杯は2倍の規模に膨れ上がり、欧州のチャンピオンになるためには、グループリーグを勝ち上がらなければならない。国境の意味合いはずいぶんと薄くなり、選手たちはEUの枠内を自由に行き来できるようになった。

 時代は、変わったのである。

 日本のプロ野球がそうであるように、欧州におけるサッカーの新シーズンも、学校の新学年がスタートする時期から、というのが通例だった。つまり、9月上旬の開幕である。

 だが、W杯や欧州選手権といった大会の規模増大や、CL、ELといった国際的なリーグ戦が行われるようになったことで、試合の数は大幅に増加した。W杯や欧州選手権のスケジュールを動かすことは難しいため、各国は必然的にリーグ戦の開幕を前倒しにするようになった。新学期が始まる時期に合わせていたら、日程がおそろしく過密なものになってしまうからである。

 そのしわ寄せが、移籍市場に現れている。

 目下のところ、欧州では8月31日が夏のマーケットの締め切りということになっている。新学期はパリッとした新体制で迎える。補強という名の宿題は、それまでに終わらせておく。そういった意味合いがあっての締め切りだった。

 ところが、開幕の時期がどんどん早くなったことで、状況は一変した。

 以前は“開幕前夜”だった8月31日は、もはやシーズン真っ只(ただ)中である。にもかかわらず、締め切りは以前のままのため、開幕から3戦から4戦を戦った時点で、主力が入れ替わるというケースが激増しているのである。

 たとえば、今季ブンデスリーガでも優勝候補にあげられているヴォルフスブルクだが、それは昨季の年間最優秀選手に選ばれたデブルイネの存在が大きく関係していた。ところが、今季も素晴らしい活躍を見せていたこのベルギー人アタッカーは、8月31日の締め切り直前にマンチェスターCへの移籍が決まった。

 大黒柱を引き抜かれたヴォルフスブルクは、すかさず動いた。バイエルンからダンテ、そしてシャルケから若きスター、ドラクスラーを獲得したのである。

 おそらくゲルゼンキルヘンでは、真新しいドラクスラーのネーム入りユニホームを購入したファンが、怒りと悲しみに震えていることだろう。開幕前であれば、まだ諦めもつくし取り返しもきく。だが、この時期では不可能。巨大化した欧州のサッカー市場は、いよいよ、“持たざる者”にとって厳しいものになっている。(金子達仁氏=スポーツライター)

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