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【コラム】金子達仁

岡崎“得点特化型”認めてもらえる好環境

[ 2015年8月22日 05:30 ]

<ウェストハム・レスター>前半27分、跳ね返ったボールをヘディングで押し込み、プレミアリーグ移籍初ゴールを決める岡崎(AP)
Photo By AP

 そのスタイルがいよいよゲルト・ミュラー的になってきた、と書いたのはちょうど1年ほど前のことである。ほぼ時を同じくして、ドイツのメディアにも同様の記事が目立つようになった。高くもなければ強くもなく、速くもなければ巧みなドリブルがあるわけでもないのに、なぜかゴールは量産する。確かに、マインツでの岡崎は“爆撃機”と呼ばれた男のスタイルを彷彿(ほうふつ)させるものだった。

 もっとも、ミュラーのような、あるいは岡崎のようなタイプのストライカーは、多様な選手を輩出してきたドイツにおいてもかなりの少数派である。というより、ミュラー以降、彼のような点のとり方をするドイツ人選手は、ほとんど現れなかった。実は岡崎がもっともそのイメージに近いのではないか、と思えるほどに。

 少年時代に読みふけった専門誌によると、現役時代のミュラーの人気は、たとえば同僚のベッケンバウアーなどに比べると、あまり芳しくなかった印象がある。ストライカーにとって最大の見せ場はゴールシーンだが、ミュラーの場合、あまりにも「誰にでも決められそうなゴール」が多かったのが原因らしい。

 言うまでもなく得点はサッカーにおけるもっとも重要な場面の一つだが、多くのドイツ人は「得点をあげるだけ」のミュラーをあまり評価しなかった。正当な後継者と言うべき存在がなかなか現れなかったのは、それゆえかもしれない。

 これはドイツ人に限ったことではない。日本を含めたほとんどの国で、ストライカーは得点以上のものを要求される。イングランド人も、フランス人も、またしかり。万能型か、はたまた一芸型か。得点を奪うだけでなく、好機をつくるためにも貢献することが求められる。

 そんな中、特異な存在といえるのがイタリアである。徹底して勝利にこだわるこの国では、最後の1分だけでも仕事をすれば、残りの89分は何もできなくても許される土壌があった。そんな国だからこそ、パオロ・ロッシが生まれ、スキラッチ、インザーギ、ディナターレといった“得点特化型”のストライカーを数多く輩出してきた。

 岡崎がゴン中山に憧れていたのはよく知られた事実だが、その中山は、スキラッチとともにプレーした時期がある。特筆すべき特徴はないが、それでもW杯得点王となった男のエッセンスは、憧れの人を通じて岡崎に伝わっているといえないこともない。

 そして何より、今年から彼がプレーするレスターの監督はラニエリ――イタリア人である。世界でもっとも、得点特化型のストライカーを認め、大切にしてきた国の監督である。

 何度も書いてきた通り、日本人がプレミアで成功するのは簡単なことではない。けれども、岡崎の場合、スコットランド人の監督の下で働いた香川よりは、恵まれた状況にあるといえるだろう。(金子達仁氏=スポーツライター)

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