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【コラム】金子達仁

W杯へ不安は1ミリもないが、柴崎交代に疑問

[ 2015年6月17日 05:30 ]

シンガポールと引き分け、サポーターのブーイングを受けながら引き揚げる本田(4)ら日本イレブン
Photo By スポニチ

 19年経(た)ってやっとわかった。

 あの時、ブラジル人たちはどんな気持ちで川口能活を眺めていたのか、が。

 GKには一生のうちに一度か二度、自分でも神懸かっていると感じる日があるという。イズワン・マフブドにとっては、15年6月16日がまさにそうした一日となった。採点をするならば10点満点で12点。あれだけ奇跡的なセーブを連発されてしまえば、そうそう点など取れるものではない。

 ただ、そういう流れをつくってしまったのは日本だった。

 イラク戦での戦いぶりをわたしは絶賛した。いままでやってきたものに、新監督のエッセンスが加わった、とも感じた。試合の朝、ラジオ番組でスコアの予想を頼まれた際には「10―0」と答えてしまったほどである。現実的なスコアでないことはわかっていたが、それぐらいの試合をやるのだという気概を見せてもらいたかったのだ。

 だが、やはり親善試合とW杯は別物だったらしい。この日のピッチには、日本の強さを見せつけてやろうと意気込む選手がいた半面、自分のところからやられてしまっては大変だ、と考えている選手がいた。イラク戦で見せたあらゆる面での速さを追求するのではなく、従来通り、安全第一のプレーを心がけた選手がいた。

 前半もなかばをすぎたあたりから、シンガポールは完全に引いた。とはいえ、その守備は決して堅固なものとは言えず、特に、サイドからの崩しに関しては明らかなモロさを露呈していた。

 にもかかわらず、日本の両サイドはなかなか飛び出していかなかった。ハリルホジッチが宇佐美を呼びつけ、もっと両サイドからの攻撃を増やすように指示を与えても、飛び出さなかった。

 いや、飛び出せなかった、というのが正解だろう。自分のチームや親善試合ではできていたことが、なぜか、できない。やれと言われても、できない。恐ろしく苦いが、そのことを多くの選手が理解したことが、この試合最大の収穫である。

 あれだけ笛を吹いても踊ってくれない選手がいると、監督の仕事は相当に難しいものになる。そう考えると、試合直前に長友が使えなくなったのは痛かった。彼ならば、宇佐美を孤立させることなく、積極的にサイドを飛び出しただろうから。

 イラク戦でできたことができなかったことで、ハリルホジッチのチームは少しばかり時間を逆行した。この日のチームに、新監督のエッセンスはなかった。あったのは、引いてくるチームを崩せない従来と同じチームだった。

 この結果が今後に悪影響を及ぼすか?そうは思わない。本大会出場に暗雲が立ち込めた、などとは1ミリも思わない。ただ、ハリルホジッチ監督の采配力に対する疑念は芽生えた。柴崎の交代。あれはない。日本の攻めは、あの交代を機に知性を失った。(金子達仁氏=スポーツライター)

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