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【コラム】金子達仁

ボールの速さ、反応、非の打ちどころがない

[ 2015年6月14日 05:30 ]

<日本・イラク>前半、本田のゴールにガッツポーズするハリルホジッチ監督
Photo By スポニチ

 残念なことに、今回のイラク代表にはブンデスリーガでプレーする選手がいないという。

 いれば、聞いてみたかった。

 「日本のサッカーは、レバークーゼンやドルトムント、メンヘングラッドバッハと比べてどうですか?」

 ハリルホジッチ監督の国籍はフランスだが、今回の日本代表の方向性は、明らかにドイツの方を向いている。そして、ピッチの外から見ているわたしの目には、日本の速さは際立って見えた。それこそ、切り替えの早さで鳴らすブンデスリーガの強豪と比較しても、である。

 早い時間帯に先制点を奪えたことで、日本にとって戦いやすい展開になったという面は確かにある。ただ、それにしても日本の考えるスピード、ボールを縦に入れるスピード、奪われてからの反応のスピードは、圧巻といってもいいレベルにあった。仮に先制点を奪うまでてこずっていたとしても、イラクにできることはほとんどなかっただろう。

 実を言えば、速さを追求するあまり、ザッケローニ以来のサッカーを否定しているようにも見えたハリルホジッチ監督に、わたしはちょっとした不安を覚えてもいた。だが、この日のサッカーを見てそれが杞(き)憂(ゆう)だということがわかった。彼がやりたかったのは、これまでの価値観の否定ではなく、新しい武器を植えつけることだということが、はっきりしたからである。もし価値観を否定したいのであれば、前任者のDNAを感じさせる従来のメンバーを大幅に入れ替えている。

 これまで、日本がアジアを戦ううえで毎回直面してきたのは、引いた相手をいかにして崩すか、という問題だった。PKで敗れたアジア杯などは、その最たる例だと言っていい。だが、相手の思考回路までをも速さで圧殺する今回のやり方は、アジアでの戦いをかなり楽にするかもしれない。

 ここ数年、日本は両サイドバック、特に長友の攻撃参加を大きな武器としてきた。ところが、この試合の前半は、彼が攻撃に絡む機会は驚くほど少なかった。長友の動きが悪かった、のではない。彼は相変わらず献身的なスプリントを繰り返していたが、前線の選手たちが自分たちだけで問題を解決してしまっていたからである。

 以前の日本であれば、中盤や前線の選手がボールをためることで、両サイドバックが攻め上がる時間をつくっていた。縦への速さは、いまのところ長友たちから攻撃面での見せ場を奪った形になっているが、相手が引いてくれば、すでに十分破壊的な日本の攻撃は、さらなる槍(やり)を付け加えることになる。

 今日の勝利は、日本の未来を約束するものでは決してない。けれども、W杯予選直前の試合としては、かつてないほど非の打ちどころがない試合でもあった。まずは、シンガポール戦を楽しみにしたい。(金子達仁氏=スポーツライター)

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