×

【コラム】金子達仁

黄金時代の存在が低迷クラブ復活後押し

[ 2015年5月30日 05:30 ]

5季ぶりのリーグ優勝を決め、喜び合うチェルシーイレブン(AP)
Photo By AP

 なぜロンドンの冴(さ)えない二流クラブだったチェルシーは、その存在を世界中のサッカーファンに知られるようになったのか。

 理由はもちろん一つではないが、最大のものを一つあげるとするならば、カネ、だろう。近年の欧州で劇的な台頭を遂げたチームのほとんどには、アラブか、アジアか、ロシアかのカネが関係している。巨大な資金力を背景にしていなければ、欧州で勝つことなどできない――それが21世紀の常識となった。

 おそらく、この常識は22世紀になっても変わることはあるまい。ただ、物事には例外があることも、今季のブンデスリーガでは明らかになった。古豪ボルシアMGの復活である。

 このチームが本拠地としているのは、ドイツ中西部に位置する人口26万人の小都市である。当然、潤沢な資金など望むべくもない。70年代に黄金時代を築いたものの、移籍の自由が進むにつれ、チームは金満チームにとって草刈り場へと転落していった。ただ勝ち点を提供するだけでなく、育てた選手も片っ端から引き抜かれてしまう立場である。

 99年にはついに2部へと降格。その際、現在はチームの副会長を務めるボンホフ監督は「このチームは二度と浮かび上がれないかもしれない」と漏らしたほどだった。

 幸い、ボンホフの危惧は杞憂(きゆう)に終わり、チームは再び1部で戦うようになった。とはいえ、結果にしても内容にしても、黄金時代とは比べものにならず、中位もしくは下位あたりがチームの定位置となりつつあった。

 だが、数年前からチームは再び上昇機運に乗った。その原動力となったのが、11年2月、ピンチヒッターとして監督に就任したスイス人のファーブルだった。クライフ時代のバルセロナで研修をしたこともある彼は、守備を安定させ、攻撃を多様化させることに成功した。ダンテ、ロイス、テア・シュテーゲンと毎年のように主力を引き抜かれたが、そこはディレクターに就任したエベール氏が的確な補強でカバー。ついにチームを初のCLストレートインにまで導いた。

 優秀な監督、目利きのフロント。加えて、06年W杯開催を狙って建設された新スタジアムも、ボルシアMGの復活を後押しした。だが、それ以上に大きかったのは「黄金時代」の存在だった。低迷期は「伝統と伝説は重荷になる」と嘆くクラブOBもいたが、一度上昇機運に乗ると、伝統と伝説が選手たちの背中を押した。今季、彼らが「バイエルン・ハンター」と呼ばれるようになったのは、かつての時代があればこそ、である。

 一度黄金時代を築いたクラブは、たとえどれほど低迷しようとも、復活の可能性がある。そのことを今季のボルシアMGは証明した。ならば、同じことが日本でもできるのでは、と緑色のユニホームを思い浮かべてしまうわたしである。(金子達仁氏=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る