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【コラム】金子達仁

失望したが、これはあくまで「公開練習」

[ 2022年7月25日 07:45 ]

Eー1選手権(男子)   日本0-0中国 ( 2022年7月24日    豊田ス )

<日本・中国>引き分けに終わり、サポーターにあいさつする日本代表イレブン(撮影・後藤 大輝)
Photo By スポニチ

 香港戦が終わったあと、「評価の対象とすべきは最終戦の韓国戦ただ1試合のみ」と書いたわたしである。公開練習程度にしか考えていなかった試合がお粗末な結果に終わったからといって、興奮したりはしない。こめかみあたりに感じる微妙なヒクつきも、おそらくは気のせいだろう。

 ただ、失望はした。それも、相当深く失望した。正直、泣きたい気分にさえなった。前半終了直前にあった1シーンのせいだった。

 日本が主導権を握り、中国が守りを固める。最初から最後までほぼ予想通りの展開で進んだこの試合に、ほとんど唯一といっていいほど例外的な場面があった。それが、前半終了直前に日本陣内の極めて深いところで中国が得たFK。日本は11人全員がペナルティーエリア内に入り、中国も7人が飛び込む構えを見せた。

 だが、中国からすれば千載一遇の好機は、あまりにも工夫のないキックが大迫にキャッチされたことであっけなくついえた。

 似たようなシーンを、わたしは4年前のW杯ロシア大会で見た記憶がある。終了直前のCK。GKクルトワのキャッチから始まった超絶カウンター――。

 7人の中国人選手が日本のペナルティーエリア周辺に集結したということは、日本にとってピンチであると同時に、乗り切ることができればこの試合最大のチャンスとなる可能性があった。なにしろ、亀のように自陣に張りついていた相手が、この時ばかりは這(は)い出してきてくれているのだ。そして、大迫のクリーンキャッチは、4年前にベルギーにやられたことを再現する絶好のチャンスだった。

 だが、大迫がカウンターに入ろうとも、デブルイネのスピードで飛び出す日本選手は一人もいなかった。というより、この場面を唯一無二の絶好機だと考えていた選手自体が見当たらなかった。結局、大迫は巡航速度でポジションをあげたCBの中谷にボールを入れ、相手を脅かすことよりもボールを奪われることを恐れた中谷は、自分の後方から追いかけてきた選手にボールを奪われた。

 いささか中谷には厳しい表現になってしまったが、そもそも、駿足(しゅんそく)のアタッカーたちが急所をつける位置に飛び出していれば、攻撃の選手ではない中谷がボールを渡されることもなかった。あの場面で、誰一人として4年前の絶望を教訓としていなかったことが、わたしにはとにかく悲しかった。これでは、どこかの国から「歴史を忘れた民族に未来はない」と罵(ののし)られても返す言葉がない。

 あの場面で全員が一斉に反応する、しないというのは監督の問題ではない。ただボールを受け、パスを回しているだけでなく、相手の心理や状況に頭を巡らせておけば、むしろ反応しない方がおかしい場面だった。

 もっとも、あの場面で敏感に反応するセンサーを持った選手たちであれば、試合の途中でもっとリスクを取る方向に舵(かじ)を切っている。自分は失敗をしないことに腐心し、誰かが何かしてくれるのを漠然と待つ。前後半を通じて殺気のようなものをほとんど感じさせてくれなかった戦いぶりは、まるで現代日本の問題点を突きつけられているようで、暗澹(あんたん)たる気持ちになった。

 ただ、これはあくまでも「公開練習」である。

 どれだけ練習で失敗しても、大切なのは本番。水曜日の韓国戦まで、癇癪(かんしゃく)をおこすのは我慢しておく。(金子達仁氏=スポーツライター)

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