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【コラム】金子達仁

“ガチ”の「クラブ・ワールドユース」を日本で

[ 2022年7月18日 10:20 ]

リバプール戦で就任後初勝利を飾ったテンハグ監督
Photo By AP

 0―4。大敗である。公式戦であれば、この1敗だけで監督のクビが飛ぶことも考えられる結果である。

 12日、タイのバンコクで行われたプレシーズンマッチで、リバプールがマンチェスターUに0―4で敗れた。

 だが、敗れたクロップ監督は「試合内容を評価するのはナンセンス」と歯牙にもかけず、就任後初勝利を飾ったテンハグ監督ですら「過大評価するつもりはない」とあっさりしたものだった。

 そもそも、シーズン開幕を間近に控えたこの時期に、蒸し暑い地域での試合をこなしたいサッカー選手が、どれだけいるものだろうか。実際、多くのチームがアルプスにほど近い避暑地にキャンプを張り、「ご近所さん」とスパーリングをこなすというプレシーズンを過ごしている。たとえば板倉が移籍したボルシアMGが、バイエルン州の景勝地、テーゲルン湖畔で合宿中のように、である。

 では、環境的にも練習相手選びの面でもメリットの多い避暑地ではなく、わざわざ蒸し暑い地域に出かけるチームがあるのか。理由はもちろん、カネである。

 クロップ監督の言う通り、この時期の試合内容をとやかく言っても意味がないことを、欧州のファンは知っている。それゆえ、イタリアにせよスイスにせよオーストリアにせよ、アルプス近郊で行われるプレシーズンマッチには集客力がない。いまや各チームが試合の様子をSNSにあげているが、そのほとんどが観客数百人程度の牧歌的雰囲気の中で行われている。

 だが、蒸し暑いアジアまで出向けば、様相は一変する。やる側からすればさして意味のない試合であっても、生身のスターたちを見たい人たちがスタジアムに殺到し、チームの財政は大いに潤う。ロシア・マネー、チャイナ・マネーの威力が急速に萎(しぼ)みつつある中、新たな資金源を獲得したいとの思惑もあるだろう。

 とはいえ、すでに十分な富を得ているスーパースターからすれば、遠征によって得られる報酬はさして魅力があるものではない。数年前、ユベントスが韓国に遠征した際は、C・ロナウドが試合に出場せず大騒動に発展したが、仮に契約で縛って出場を強要したとしても、公式戦同様のパフォーマンスを期待するのは無理があった。こういった場で持てる力すべてを発揮しようとするのは、基本、無名の若手たちになる。

 やる気のないスーパースターと、やる気満々の若手。もちろん、それでも前者が見たいという方もいらっしゃるだろうが、わたしだったら後者が見たい。

 どうせ大枚をはたくなら、いっそのこと、世界のジャイアント・クラブの20歳以下、もしくは18歳以下のチームを世界各国から呼び集め、高円宮杯の優勝、準優勝チームあたりを加えての真剣勝負が見たい。

 かつて、欧州からの出場辞退が相次ぎ、消滅の危機に瀕(ひん)していたクラブ世界一決定戦は、日本が、トヨタが関わったことで大きく化けた。ならば、いまはまだないクラブ・ワールドユースを日本で開催することはできないだろうか。

 先月、仙台に16歳以下の各国代表を集めて行われたインターナショナル・ドリームカップは、非常に興味深い大会だった。すべてのチームは、間違いなく“ガチ”だったからである。わたしが見たいのは、その“クラブ版”である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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