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【コラム】金子達仁

不調だった南野の起用 森保監督は賭に勝った

[ 2022年2月3日 06:00 ]

<日本・サウジアラビア>後半、シュートを放つ南野(撮影・光山 貴大)
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 心の底から思う。

 良かった。森保監督の堪忍袋の緒が、わたしのものより太くて本当に良かった。

 「個人的には、出場機会の少ない選手の飢えに期待したいと思っている」

 中国戦の後、わたしは原稿の最後にそう付け足さずにはいられなかった。出場機会の少ない選手の飢えに期待するということは、つまり、出場機会の多い選手に期待するのを半ば諦めたからだった。白状すると、我が堪忍袋の緒は完全かつ全面的にブチ切れていた。

 そして、わたしの中の“諦めリスト”の筆頭に名を連ねていたのが、南野だった。点を取るという仕事にはバイオリズムもある。最終予選に入ってからの彼は、得点どころかチャンスに絡むことすらできなくなっている。ノット・ヒズ・デイならぬ、ノット・ヒズ・トーナメント。ならば、大会に嫌われていない選手に代えるべきだと思っていた。

 おそらくは森保監督も、最終予選に入ってからの南野にはストレスを感じていたに違いない。何しろ、ここまでの得点はゼロ。誤算も誤算、大誤算である。ストレスを感じていなかったら、そちらの方がどうかしている。

 だが、幸いなことに、森保監督の堪忍袋の緒は太かった。わたしのであれば切れていた負荷に、彼の緒はしっかりと耐えてみせた。

 誰がどう見ても、この試合のMVPはまたしても1得点1アシストを記録した伊東だし、いや、守田の攻守にわたる貢献度が大きかった、とおっしゃる方もいるだろう。田中碧や遠藤、両CBの名前をあげる人もいるかもしれない。

 それでも、わたしが森保監督の立場であれば、南野がゴールをあげてくれたことに一番の手応えを感じている。伊東は、守田は、田中は、ある程度の計算が立っていた。

 翻って、南野の起用は賭けだった。心中と言われても仕方がない采配だった。利回りが約束された株と、下落を続け、それでも反発を信じて持ち続けた株。賭け?信念?計算?言い方はどうでもいいが、勝ったのは森保監督だった。

 今にして思えば、わたしはもう一つ、中国戦の見方で過ちを犯していた。

 中国はまたしても何もしてこなかった、とわたしは書いた。どうやら、それは半分正しく、半分間違っていたらしい。確かに彼らは無策だったが、なぜ無策になったかと言えば、日本が何もさせなかったから、だった。そのことが、やはり何もさせてもらえなかったサウジを見て初めてわかった。

 完勝した日韓戦がそうだった。五輪に向けたテストマッチや、本番でのフランス戦がそうだった。森保監督が作るチームは、歯車がうまくかみ合っている時、自分たちがチャンスを作るだけでなく、前線からの連動したチェックでチャンスの芽を片っ端から摘み取ってしまうのが特徴だった。

 その特徴が、少しずつ戻ってきている。勝つ力にはまだまだ物足りなさが残るが、負けない力に関しては、ほぼベストの状態に戻りつつある。

 そして、南野にゴールが生まれた。

 もう怖いものはない、というのは調子に乗りすぎとしても、相手の攻撃を封じる能力が稼働し、詰まっていたケチャップが一噴きした意味は大きい。

 これは、勝っただけ、という試合の多かった今回最終予選で初めてとなる、自信に、次につながる勝利である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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