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【コラム】金子達仁

名門で日本人選手共演 これって凄い変化なのでは?

[ 2022年1月21日 06:00 ]

ヒバーニアン戦の前半、移籍後初ゴールを決めた前田(左)を祝福する旗手=グラスゴー
Photo By 共同

 単に会話のためのツールでしかなかったケータイは、いつしか依存症が問題になるほど、人々にとって欠かせない存在になった。化石燃料を選択するしかなかった自動車の燃料は、電気や水素を選べる時代になった。

 当たり前でなかったことが、当たり前になる。あるいは、当たり前だったことが、当たり前ではなくなる。どちらも滅多(めった)に起きることではないが、時々は起きる。

 まだ世界がテスラもリーフも知らなかった時代、日本サッカー界にとって海外でプレーするのは特別なことだった。

 そもそも、その特別な立場に挑戦できるのは、プロ入りする前から将来を嘱望された存在ばかりで、Jリーグへの入団は、複数の球団による争奪戦を経てからのものだった。中田英寿も、本田圭佑も、南野拓実も、デビュー前からファンには知られた存在だった。

 今年の高校サッカーで最も名前を知られた選手と言えば、多くの人は青森山田の松木玖生を思い浮かべるだろうし、ひょっとしたら、静学の古川陽介という方もいるかもしれない。わたしの目にも、彼らは素晴らしく魅力的に映った。それこそ、韮崎の中田や、星稜の本田に負けないぐらいに。

 だが、FC東京入りが決まった松木、磐田へ行く古川を巡って、激しい争奪戦が繰り広げられた、という話は聞かなかった。彼ら2人だけではない。かつての高校サッカーであれば大騒ぎになっていたであろうレベルにある選手の周囲も、いたって静かなものだった。

 しかも、後に海外でプレーするスターたちの多くは、入団後即レギュラーを獲得していたが、令和4年の日本では、松木でさえFC東京のレギュラー確定とは見られておらず、しかも、そのことが何の驚きにもなっていない。かつての日本サッカーでは当たり前だったことが、いまや完全に当たり前ではなくなった。

 その逆もある。

 先週、ブンデスリーガのビーレフェルトに所属する奥川雅也が4試合連続となるゴールを決めた。4試合連続!それも、失礼ながら弱小ビーレフェルトで!とんでもないことだ。ハンブルクで“スシボンバー”こと高原直泰が得点を奪ったのに負けないぐらい、大変なことだ。

 ところが、その一挙手一投足に注目が集まった高原と違い、奥川の快挙はサラッと流されてしまった。ブンデスリーガのレベル、所属するチームの実力を考えれば、国中が大騒ぎになっていてもおかしくないのに、まるで騒ぎは起きなかった。

 いまでいうガラケーが少しもガラパゴスだとは思われていなかったころの日本人は、海外での日本人対決にも熱狂した。見ておかないと一生後悔する。わたし自身、そんなふうに感じて足を運び、またチャンネルを合わせたことを覚えている。

 先日、セルティックでは3人の日本人選手が出場した。日本人対決、ではなく、日本人の共演だった。全世界に1000万人近いファンを持ち、単なるクラブを超えた存在として知られる名門で、日本人選手が同時出場したのである。

 電気自動車もスマホも、気付かないうちに当たり前になっていた。同じことが、滅多に起きないことが、いまの日本サッカー界には起きている。何となくスルーしてしまっているけれど、これってひょっとしたら世界的に見ても凄い変化なのではないか、と密(ひそ)かに思う。(金子達仁氏=スポーツライター)

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