×

【コラム】金子達仁

カズ移籍ならJFLに「成功体験の共有」

[ 2021年12月9日 21:00 ]

JFL鈴鹿が獲得を目指す三浦知良(横浜FC)
Photo By スポニチ

 8日付のスポニチ1面には驚いた。

 「カズ JFL鈴鹿入りも」

 まだ決まった話ではないだろうし、決まらないまま流れる可能性もあろう。ただ、非常に興味深いオファーではあるし、ぜひ決まってもらえたら、とも思う。

 今季J1での出場時間がわずか1分だった選手が、カテゴリーでいけば4部リーグに当たるJFLへ移籍する。それで試合に出場する機会が増えるかと問われれば、わたしは迷わず「No」と答える。

 プロ創成期と違い、いまや4部リーグであっても、元プロや年代別代表で日の丸をつけた選手は珍しい存在ではない。「なぜこんな才能がこんなところに」と目を疑うような選手も各チームに何人かはいる。

 しかも、Jリーグに比べると環境面で確実に落ちるJFLでは、ほとんどの試合が昼間に行われる。肌が焼け焦げそうな季節になっても、炎天下でのキックオフを避けられるチームはまれである。

 およそ、55歳の選手に適した環境ではない。

 それでも、もしわたしがJFLに所属するチームの関係者だったとしたら、カズが欲しいと思うだろう。

 資金面でのプラスはもちろん考える。もはやカズの全盛期を知るサッカー選手は少なくなったが、大きなお金を動かす世代で、彼の活躍を知らない人はほとんどいない。カズがいる、というだけで、スポンサーとの交渉がスムーズになることは十分に考えられる。

 だが、実はそんなことは大した問題ではない。

 J1とJFLとの間に存在する最も大きな違いは、「成功体験の共有」だとわたしは思う。

 たとえば神戸の選手であれば、メッシがどんな練習をしていたのか、ケガの多かった彼がなぜフルシーズン戦えるようになったのかを、イニエスタに聞くことができる。ブンデスとプレミア、リーガの違いを武藤に聞くこともできる。そして、さして期待されていたとは思えない古橋が、いかにしてのし上がり、海外でプレーするようになったのかを目の当たりにもした。それらの経験は、自らがのし上がるための極めて大切な財産となる。

 JFLでプレーする選手のほとんどには、触れるどころか目にすることさえ難しい類いの財産だ。

 だが、カズがチームメートとなれば話は変わる。カズ自身の成功談、失敗談はもとより、オフになるたび、彼を慕って会食をする現役日本代表の話を聞くこともできる。それも、講演の演者と聞き手、指導者と選手という関係ではなく、同じ食事をし、同じバス、飛行機で移動し、同じ宿舎で寝泊まりするカズに、同じ選手として聞くことができる。

 カズを獲得すれば、かくも贅沢(ぜいたく)な日常を選手たちにプレゼントすることができる。仮にプレーヤーとしてピッチで貢献することはできなくても、チームとして得るところは極めて大きい。

 巷(ちまた)には「晩節を汚すな」といった声もある。一理あるな、と思う半面、世界でたった一人しかいない55歳のサッカー選手が、どこまでもがくのか見てみたい気持ちの方がわたしは強い。

 ちなみに、「若手の枠を奪うな」という声もあるようだが、これにはまったく賛同できない。問題があるとすれば、55歳の選手と天秤(てんびん)にかけられてしまうその選手の力量の方だろう。(金子達仁氏=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る