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【コラム】金子達仁

"偶数勝ち点"獲得が今月2試合の理想型

[ 2021年10月7日 08:30 ]

 正念場。性根場と書くこともあるらしい。性根を据えて向かう場面。据えねばやられる。やられれば奈落に落ちる。選手やスタッフは相当な思いでサウジに乗り込んでいるだろうし、わたし自身、久しぶりの緊張感とともに試合を迎えようとしている。

 もちろん、この10月シリーズの理想的な形は、敵地でサウジを倒し、埼玉でオーストラリアを粉砕すること、になる。ただ、今月の2試合でまず大切なのは、偶数の勝ち点を獲得すること、だと個人的には思う。

 偶数の勝ち点とは、つまり、2勝の勝ち点6、1勝1分けの勝ち点4、2引き分けの勝ち点2である。6なら完璧、4はまずまず、2でも、1勝1敗の勝ち点3よりはずっといい。

 なぜか。2引き分けによる勝ち点2は、日本からすれば勝ち点4を取りこぼしたことになるが、同時に、サウジ、オーストラリアからも勝ち点を2ずつ奪ったことになる。つまり、その時点で存在する勝ち点差は、縮みはしないが開きもしない。

 だが、1勝1敗による勝ち点3は、サウジかオーストラリアのどちらかとの勝ち点差を6に広げてしまう。全部で10試合しかないリーグ戦における勝ち点差6は、絶望的とまでは言わないものの、相当に厳しい。もちろん勝ちは欲しいが、それ以上に負けてはいけないというのが、戦う上での大前提となってくる。

 個人的に注目、というか期待をしているのは、酒井、長友、大迫の3人。現時点ではスタメンとして出場するか不明だが、もしピッチに立つのであれば、これまで以上の、誰の目にも圧巻というレベルのプレーを見せてほしい。

 彼ら3人は、この夏、活躍の舞台を欧州から日本に移した。察するに、理由の一つには欧州より早く閉まってしまう日本のマーケット事情もあったのだろう。欧州からのオファーを待っているうちに日本のマーケットが閉じてしまう現状では、Jと欧州を天秤(てんびん)にかけるのは難しい。

 だが、多くのファンだけでなく、Jでプレーする若い選手たちからすると、日本行きを選んだ彼らの決断は“都落ち”に映る。欧州でダメになったから日本に来た。盛りは過ぎた――そう思っている人は少なくないだろうし、実際、帰国後も以前と変わらぬ活躍を代表で見せた選手はほとんどいない。

 だからこそ、長友たちにはどこでプレーをしようがアジアでは傑出した存在であり続けていることを証明してもらいたい。J1のレギュラーよりも欧州の2部にステータスを見出(いだ)しがちなサッカー界の空気に、楔(くさび)を打ち込んでもらいたい。

 確かに、かつてはJでレギュラーを張るより、マイナーでもいいから欧州でプレーする方が得られるものの多い時代があった。日本だけではない。メキシコのような中米のサッカー大国でも、リーガエスパニョーラに対する憧れは強くあった。ウーゴ・サンチェスも、ラファ・マルケスも、主戦場はスペインにあった。

 だが、東京五輪で日本を圧倒したメキシコ代表は、そのほとんどが国内でプレーする選手だった。無条件でスペインに憧れていた時代に、彼らは別れを告げつつある。

 時代は急に変わるものではない。だが、きっかけがなければ時代は変わらない。3人のベテランには、変化への第一歩を期待したい。(金子達仁氏=スポーツライター)

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