【コラム】金子達仁

見えない「我」 当落線上の選手たちよ、満足か?

[ 2021年6月8日 16:30 ]

 タジキスタンにはグループ2位が懸かっていた。試合前の段階で彼らが獲得していた勝ち点10は、最終予選に進めるかギリギリのライン。日本から勝ち点を奪うことができれば、目標は俄(が)然(ぜん)現実味を帯びてくる。ゆえに彼らは闘志満々だったし、簡単な相手でなかったことは事実。堅い守りをこじあけ、4ゴールを奪ったことは、まあ、評価できる。

 ただ、日本にとってこの試合の目標はなんだったかを考えると、とても喜ぶ気にはなれない。勝つのは当然。森保監督が一番期待していたのは、チームの底上げだっただろうから。

 古橋の奮闘は光った。1得点1アシスト。十分に合格点はつけられる。3点に絡んだ山根の働きも見事だった。最終ラインをまとめた昌子の強さ、正確なフィードも印象に残る。

 だが、わたしが森保監督だったとしたら、来るべき最終予選で、彼らを先発で使おうという気にはおそらくなれない。古橋ではなく、大迫や南野を使うだろうし、山根ではなく酒井を使う。最終ラインは、もちろん吉田と冨安である。

 つまり、トップチームの底上げは、ほとんどできていないということになる。

 何より残念だったのは、選手たちの側に、森保監督の心理を推し量ろうとした気配が見られなかったことだ。

 レギュラーメンバーの安定感は、控えの選手たちも理解しているはず。現時点で総合力の勝負をしても分は悪い。それでも牙城を崩そうと目論(もくろ)むのであれば、ジョーカーになるしかない。レギュラーメンバーが持っていない何か、自分にしかない何かをアピールするしかない。「お、こいつこんなことができるのか」と監督を唸(うな)らせるしかない。

 だが、極めて残念なことに、我ジョーカーたらん、との気概を感じさせてくれた選手は皆無だった。ジョーカーたりえなかったことに、憤りや怒りをにじませている選手も見当たらなかった。

 申し訳ないが、これでは話にならない。

 選手たちにとって幸いなことに、今月はあと2試合、アピールの機会が残されている。セルビアは強敵だし、今日のタジキスタン同様、2位の可能性が残るキルギスも必死になって向かってくるだろう。それでも、ここで何らかの爪痕を残さない限り、レギュラーとの差は一向に縮まらないし、五輪メンバーが合流してくれば、代表に名を連ねること自体が難しくなってくる。

 数年前のわたしであれば、控え組といっても差し支えのないメンバーで激しく抵抗する相手を打ち破ったことに、ある程度の満足感を覚えていたかもしれない。1失点を喫したとはいえ、打たれたシュートもこの1本のみ。内容的には完勝といってもいい試合だった。

 だが、W杯本大会で前回以上の成績、つまりベスト8以上を狙うのであれば主力が抜けても力の落ちないチームであり、特別な切り札を持ったチームになる必要がある。

 いまの日本は、まだそのレベルにはない。そのことを思い知らされた試合でもあった。

 監督に言われた通りのことをやる。指示は忠実に守る。これは日本人の美徳でもあるが、いまの日本代表の顔ぶれを見る限り、どこかで強烈な我を打ち出さない限り、定位置は遠い。

 当落線上の選手たちよ、それでも、君たちは満足なのか?(金子達仁氏=スポーツライター)

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