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【コラム】金子達仁

「ソン・フンミン不在」では説明できない日韓の差

[ 2021年3月30日 15:00 ]

 これは大変だ。

 メディアはもちろん、ファンが激怒しているのは確実。監督の更迭を要求する声が噴出しているだろうし、そもそもこんな試合はやるべきではなかった、とわめき散らす人もいるだろう。10年前、札幌での試合が悪夢だというのであれば、この試合の評価はどういうことになってしまうのか……などと韓国人の心情を想像してニヤニヤしている。

 長いこと日韓戦を見てきたが、日本が敗れた試合も含めて、こんなにも一方的な試合はちょっと記憶にない。局面局面で薄汚いラフプレーをする選手はいたが、チーム全体からこんなにも闘志の伝わってこない韓国を見た記憶もない。はっきり言わせてもらうと、史上もっとも歯ごたえのない日韓戦だった。

 負けず嫌いの韓国人の中には、敗因を孫興民(ソン・フンミン)の不在に見出(みいだ)す人がいるかもしれない。気持ちはわかる。わかるのだが、賛同はまったくできない。というより、この惨状を招いたのは孫興民を神格化しすぎたからでは?という気もしている。

 孫興民が偉大な選手であることに疑いの余地はない。バルサにおけるメッシが偉大な存在であるのと同じぐらい、疑いの余地はない。そして、偉大すぎるメッシがバルサのティキタカを蝕(むしば)んでしまったように、世界トップクラスの決定力を持つ選手を抱えたことで、韓国はかつてないほど怠惰なチームになってしまった。

 そんなチームから、頼みの綱が消えてしまったのだ。誰に頼るでもなく、攻守の切り替えの早さなど、チーム全員での勤勉さに磨きをかけた日本との差は、残酷なほどに歴然としていた。その差はおそらく、孫興民がいても埋められなかったはず、と日本人のわたしは思う。今後、孫興民を遥(はる)かに超える可能性を秘めた選手を持つ国の人間の一人としては、これを他山の石にしなくては、とも思う。

 一歩間違えば3―0どころか、5点差、6点差の決着もありえたこの試合、日韓の間にあった最大の差は最終ラインにあったとわたしは見る。立ち上がりから両者は激しく圧力をかけあった。韓国の最終ラインが余裕を喪失したのに対し、日本の最終ラインは、身じろぎもせずにパスの精度を保ち、試合の主導権を自分たちの側に引き寄せた。もはや吉田、冨安のコンビは、日本サッカー史上最強、最高のコンビといってもいい域に達しつつある。

 GK権田の安定したパンチングにも触れておきたい。反則覚悟で飛び込んでくる韓国相手のクロスボール処理は、決して簡単ではなかったはずだが、彼のパンチはただボールをはね返すだけでなく、できる限り安全なエリアへとボールを送り込んでいた。

 遠藤のボール奪取能力は別格だったし、伊東、浅野の韋駄天(いだてん)ぶりにも目を見張らされた。代表デビューを果たした選手たちの落ち着きぶりも見事だった。

 唯一心配だったのは、南野の出来。ゴール前で落ち着こうとする発想が、判断の遅さというズレになってしまっている。彼のブレーキがチームの致命傷にならなかったことは救いだが。

 何にせよ、日本戦になると異常なほどの力を発揮する韓国を相手に、ほぼ何もさせなかったことは大いに自信にしていい。森保監督の目指した道は、間違っていなかった。(金子達仁氏=スポーツライター)

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