【コラム】金子達仁

ピッチ、プレー、戦術 40年で進化遂げたが…

[ 2020年12月11日 21:00 ]

<パリ・サンジェルマン―バシャクシェヒル>試合中に審判員が人種差別的発言をしたとして引き揚げるパリ・サンジェルマンの選手
Photo By AP=共同

 もう十分すぎるほど書いたつもりになっていたら、また依頼がきた(ありがたいことなんですけどね)。マラドーナについて、である。

 神の手や5人抜きについては、もうあちこちで散々取り上げられている。マラドーナという存在の社会的、歴史的意義についても、偉いセンセー方が見事な分析をなさっている。では今回はどこを切り口にするか。そうだ、79年のワールドユースにしよう……ということで、画質の悪い41年前の映像とにらめっこする毎日が続いている。

 これが驚くことばかりで。

 たとえば国立の芝生。ひどい。ひどすぎる。FC琉球のスーパーバイザーをしていたころ、沖縄の芝生のひどさに呆(あき)れたことがあったが、79年当時の国立を見た直後であれば、一も二もなく絶賛していたことだろう。とにかくでこぼこで、およそサッカーをやるピッチではない。

 しかも、現代の感覚からすると悪夢のような芝生を、日本ユース代表としてこの大会に参加した水沼貴史さんは「ふかふかで素晴らしいと思った記憶がある」という。日本サッカーを取り巻く環境がいかに貧しかったのか、痛感させられた。

 NHKの中継にも驚かされた。アルゼンチン対ソ連の決勝戦。放送が始まったのは前半の30分あたりからだった。キックオフは午後7時、おそらくはNHKのニュースが終わってからの放送開始だったのだろう。そのことについて誰かが苦情を言っていた記憶はないし、わたし自身、何とも思っていなかった。驚くしかない。

 前年のW杯で世界王者となり、名将の名をほしいままにしていたメノッティ監督が40歳だったことにも驚いた。そのメノッティがベンチから指示を送ったら、解説の岡野俊一郎さんが笑いながら「これはいけませんねえ」とたしなめたのにも驚いた。そうだった。かつてサッカーでは、試合中に監督が指示を送るのは禁止されていたのだった。

 サッカーの質についても驚かされた。とにかく荒い。現代の感覚でいけば一発レッド、それもやられた側が激昂(げきこう)すること間違いなしの悪質極まりないタックルが、割と普通に飛び交っている。というか、やった側にもやられた側にも、それが許されざる行為であるという感覚がほとんどない。

 試合自体のクオリティーにも驚かされた。高くない。優勝したアルゼンチンでさえ、高くない。ただ、考えてみればそれも当然で、このころは、まだ戦術的な落とし込みとか、対戦相手の映像を分析しての対策とかが、まったくとられていない時代だった。選手たちは、手さぐりのまま未知の相手と対戦し、模索しながら勝ち目を探していった時代だった。

 映像を観(み)ながらサッカーと時代の進化、変化にしみじみしていたら、思わぬニュースが飛び込んできた。

 欧州CLのパリSG対イスタンブールBBSKの一戦で、ルーマニア人審判が人種差別的な発言をしたという。選手やファンならいざ知らず、社会的地位が高く、語学にも堪能な方が多い審判がこういう事件を起こすとは。

 人種差別はアウト。もう十分すぎるほど、その認識は世界中に広がっていると思っていたのだが……どうやら、サッカー界にもまだまだ進化しきれていない部分はあるようで。(金子達仁氏=スポーツライター)

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