【コラム】金子達仁

久保は「マラドーナ」になれるか

[ 2020年8月14日 05:30 ]

 リオネル・メッシが世界のサッカー史に名を残す名手であることに、異論を唱えるアルゼンチン人はいないだろう。ただ、彼がアルゼンチン史上最高の選手かと問われれば、意見は大きく割れるはずだ。ひょっとすると――いや、かなりの確率で、メッシを推す声の方が少数派になるかもしれない。

 「アルゼンチン人にとって神は一人だけ」

 そういって笑ったのは、昨年、ラグビーWCを取材に来ていたアルゼンチン人記者だった。サッカーではなくラグビーを愛し、メッシとほぼ同じ世代とみられる彼にとっても、ディエゴ・マラドーナは特別だった。

 気持ちはわかる。

 マラドーナは、アルゼンチンにワールドカップをもたらした。メッシには、同じことができていない。

 マラドーナは、必ずしも資金が潤沢とは言い難いナポリを史上初のスクデットに導いた。86年のW杯メキシコ大会同様、彼の獅子奮迅の活躍なくしてありえない優勝だった。背負っていたもの、期待されていたものは、世界最高峰の仲間たちとともにタイトルを重ねるメッシよりも明らかに重く、大きかった。

 勝つことは、「彼のおかげで勝てた」といわれる結果を残すことは、だから、極めて大きな意味を持っている。

 久保建英のビジャレアル移籍が決まった。悪い話ではない…どころか、現時点では理想に近い移籍先だと個人的には思う。監督がエメリで、かつ、彼が久保にぞっこんらしいというからより期待は高まる。

 ただ、これはわかれ道でもある。

 久保が史上最高の日本人選手、あるいは史上初めてレアルでプレーする日本人になりたいというのであれば、何も言うことはない。だが、日本人としてではなく、サッカープレーヤーとして世界に名を轟(とどろ)かせたいというのであれば、今回の移籍はラストチャンスでもある。

 ビジャレアルは素晴らしいチームだが、ジャイアント・チームではない。そして、歴史に名を残すスーパースターたちは、ほぼ例外なく、2チーム目、もしくは3チーム目で終(つい)の住処(すみか)というべきチームに辿(たど)り着いている。

 つまり、次の行き先がレアル、もしくはそれに準ずるメガ・チームでなければ、久保は世界の頂点を目指す階段を踏み外したということになる。

 FC東京での久保は素晴らしかった。マジョルカでも当初は戸惑ったものの、最終的には本来の実力を発揮できていた。

 ただ、彼はまだ一度も、チームを勝たせてはいない。FC東京ではタイトルに導く前にチームから離れてしまい、マジョルカでは降格の危機から仲間たちを救えなかった。わたしは、彼が世界のスーパースターになりうる素材だと信じているが、スーパースターになるための大きな条件をクリアできていないとも思っている。

 クリアするには、ビジャレアルで勝つしかない。

 予算や選手の顔ぶれからして、現実問題、ビジャレアルがリーガを制するのは難しい。わたしが久保に期待するのは、レアル、もしくはバルサを直接対決で粉砕すること、チームに初の欧州タイトルをもたらすこと、である。

 最悪でも、2年以内に。(金子達仁氏=スポーツライター)

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