【コラム】金子達仁

無観客試合が明らかにした“応援の力”

[ 2020年5月23日 05:30 ]

 前日の朝のこと。いつものようにNHKの朝ドラを見ていたら、ドキっとするセリフがあった。

 「応援って、わしらの自己満足やなかろうか。応援って、勝敗に関係あるとやろか」

 呆然(ぼうぜん)と博多弁でつぶやいたのは、早稲田大学の応援団長さん。なぜドキっとしたかといえば、100年ほど前の日本を舞台にした物語で描かれた、応援をする人間の疑問や苦悩に対する一つの答えが、20年のドイツで出されるかもしれない、と瞬間的に思ったからだった。

 ホームが有利でアウェーが不利というのは、いわずとしれたサッカーの常識である。ただ、その常識の呪縛力というか、選手やファンの深層心理に染みついている度合いでいうと、地域によってかなりの差があるように思う。

 たとえば日本。アウェーで強豪と引き分けたときに選手やファンの心に込み上げてくるのは、せいぜい安堵(あんど)であって歓喜ではない気がする。一方、ドイツやイタリア、スペインの弱小チームがジャイアント・クラブのホームで引き分けに持ち込んだ際は、日本よりは明らかに大きい喜びの感情が見られる。

 考えてみればそれも当然で、人気があるがゆえにプロになった欧州では、満員の観客が創設期から当たり前。はるばる敵地に乗り込み、かつ孤立無援での戦いを余儀なくされたアウェーにとって、なるほど、相当に過酷な戦いだったはず。移動も宿泊もすっかり快適になった21世紀のいまも、阪神ファンにとって“死のロード”という言葉が生きているように、欧米のサッカーファンの深層心理には、アウェーの厳しさが刷り込まれているのではないか。

 その点、プロを創設してから人気を獲得した日本サッカーの場合、ファンにも選手にも苦難の時代の記憶がない。かつて、中田英寿が「なんでこっちの選手ってアウェーだと勝てないって決めつけちゃうんだろ」と不思議がっていたことがあるが、いまになって思えば納得もできる。

 だが、今回のコロナ禍によって、欧州のサッカーは歴史上初めての状況に直面しつつある。

 応援する人がほとんどいない環境での試合――無観客試合である。

 先週末に26節から再開したブンデスリーガの場合、25節までにホームチームが残した成績は97勝49分け78敗だった。勝率でいうと勝利の割合が43・3%、引き分けが21・8%、敗戦が34・8%である。確かに、ホームが有利という定説は、数字からも証明されている。

 では、全チームがサポーターの声援を受けることなく戦った26節のホームチームはどうだったか。

 1勝3分け5敗。

 もしこの傾向が続いていくようであれば、応援は自己満足ではない、応援は勝敗に関係がある、との結論が導き出せる。応援団長さんの苦悩は、見事に解決である。

 ただ、仮に、万が一、応援が自己満足で勝敗に関係のないものだったとしても、それはスポーツに応援が必要ない、ということではない。

 観客のいないブンデスリーガは、案の定、呆(あき)れるほどに退屈だったからである。(金子達仁氏=スポーツライター)

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