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【コラム】金子達仁

五輪サッカー年齢制限問題 選手は心配無用

[ 2020年3月27日 13:00 ]

 幸いにして起こしたことはないものの、肝には銘じてある。

 謝罪してはダメ!

 それが交通事故を起こした際の鉄則なのだと学生のころに聞いた。ひとたび謝罪の言葉を口にしてしまえば、落ち度が自分にあると認めたことになり、その後の交渉が不利になる、と。

 だから、今回もそういうことなのだと思っていた。全世界が疫病に覆われるという前代未聞の非常事態。前例などあるはずもなく、当然、発生する莫大(ばくだい)な金銭的被害を誰が負担するかは全くの未定。となれば、先に延期なり中止を言い出した側が、損害をかぶることになるのではないか、と。ゆえに、IOCも日本も、世間から空気が読めてないと糾弾されても7月24日の開幕にこだわったのではないか、と。

 IOCに誤算があったとすれば、他ならぬアスリートの側から延期を望む声が噴出したことだろう。IOCとしては予定通りに開催したい。当然、選手たちも同じ思いのはず…という皮算用は木っ端みじんになった。わかったのは、IOC委員の感覚がアスリートと乖離(かいり)していることと、そうはいっても主役たるアスリートの声を黙殺するほど独善的ではなかったこと。

 おそらく、今後は損害を誰がどんな割合で負担していくかが話し合われていくはず。窮地に追い込まれたIOCに日本が救いの手をさしのべたのか、それとも狡猾(こうかつ)なIOCに日本がババを引かされたのかは、交渉の過程でわかっていくはず。

 ただ、ほんの数週間前までは「ありえない」と断言する人も珍しくなかった延期の決断が下された以上、発想のリミッターは取っ払って交渉に臨む必要がある。

 なぜ酷暑の時期に開催しなければならなかったのか。米国NBCの放送権が絡んでいるからだった。この際、それをアスリート第一主義に切り替える。たとえば、1年後にコロナが終結しているかは心もとない、もう少し遅らせれば…と提案することで、秋開催の目も出てくる。

 選手にとってはもちろん、訪れる観客やメディアにとっても、酷暑の日本より、秋の日本の方が楽しんでもらえるはず。そういえば、昨年のラグビーW杯も、暑さの残る大会序盤は日本に対して辛めの報道が目立っていた印象がある。

 欧州では、06年のW杯をきっかけにドイツに対する嫌悪感が薄れたとも言われているが、素晴らしい大会、快適な大会はその国のシンパを獲得する格好の機会。世界の快気祝いとしての意味合いが大きくなる東京五輪で、熱射病による被害者を出しては意味がない。

 そういえば、サッカーに関しては年齢制限をどうするかということが話題になっている。そんなもん、今年の段階で23歳以下だった選手に決まっているだろうが(つまり来年は24歳以下)、と思うが、五輪におけるサッカーの意味が拡大することを嫌うFIFAから、横やりが入る可能性は確かにある。

 だが、五輪に出場するつもりだった選手は心配しなくていい。今回の五輪延期でわかったことを思い出していただければ。

 スポーツ界を牛耳るおじいちゃんたち、案外アスリートの声に弱いのだ。(金子達仁氏=スポーツライター)

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