【コラム】金子達仁

6月のEURO開催可否が五輪の運命を左右する

[ 2020年3月5日 12:30 ]

 1カ月前、少なくともわたしにとって武漢の肺炎は対岸の火事だった。こんな3月を迎えようとは、恥ずかしながら、まったく予想していなかった。

 残念ながら、日本より1カ月かそこら先をいっている中国では、未(いま)だ終息の気配が見られていない。ということは、4月になっても、日本での騒ぎは収まっていない可能性が高いということになる。

 逆に、日本よりも遅れて感染拡大が始まった欧州や米国では、これから騒動が大きくなっていくとみておいた方がいい。よほどうまく感染を食い止めない限り、日本の3月は、欧米の4月か5月か、ということになる。

 これで、スポーツのイベントが開催できるものだろうか。

 先週末、ブンデスリーガでは観戦に訪れた日本人団体旅行客が試合開始15分でスタジアムから追い出されるという事件が起きた。目下のところ、このニュースはドイツ国内でも、そして日本でも「人種差別」と捉えられているようだが、追い出した側はご存じだったか否か、新型コロナウイルスは人種によって感染を「差別」していない。誰にでも見境なしに伝染していく。

 となれば、遠からぬうちに、世界では東洋人だけでなく、イラン人、イタリア人と思われる人たちへも「差別」は拡大していくだろう。

 問題は中国や日本との時間差である。

 仮に一足早く感染の拡大した国が、一足早く終息の時を迎えたとしよう。はっきり言えば、東京五輪の開幕を迎える7月24日の段階で、日本がウイルスとの戦いに完全勝利を収めていたとする。

 そのとき、世界の他の国々が同じように勝利を収めていなければ意味はない。

 想像していただきたい。まだ感染の終息を迎えていない国々から、多くの選手や関係者、さらには応援しようとする人たちがやってくる。日本は、いや、何を考えたか代替開催を申し出たロンドンは、そうした人たちを迎え入れることができるのだろうか。

 1948年のロンドン五輪は、第2次大戦の敗戦国だったドイツと日本の参加を許さなかった。同様の決断を下し、つまり感染国の選手団の迎え入れを拒否し、およそ平和の祭典とは言い難い歪(いびつ)なイベントを開催するのだろうか。

 いまのところ、IOCは予定通りに東京五輪を開催する旨を明らかにしている。だが、早い段階で劇的な状況の好転が見られない限り、東京はもちろんのこと、世界のどこであっても、五輪を開催できる状況にはないとわたしは思う。

 これは日本やIOCの恥でもなければ罪でもない。むしろ、何がなんでも開催を強行しようとして、東京で、あるいは世界のどこかで、感染拡大の機会をつくってしまうことの方が、よほど罪深いことではないか。

 五輪より一足早い6月、欧州ではサッカーの欧州選手権(EURO)が始まる。初の分散開催となる今大会の開幕戦はローマで行われる。

 つまり、UEFAはIOCより一歩早く、結論を出さなくてはならない。ここで出る結論次第で、東京の、いや、今年の五輪の運命も左右されるかもしれない。(金子達仁氏=スポーツライター)

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