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【コラム】金子達仁

ブンデスとJ 「人」は育っても「器」はどうか

[ 2019年11月15日 06:00 ]

 バルサとレアルが首位を争う?いつものこと。フランスではパリ・サンジェルマンが、イタリアではユベントスがリーグをリードしている。イングランドでは久しぶりにリバプールが独走しているが、これも、そう驚くことではない。いわゆる欧州5大リーグでもっとも意外な展開となっているのは、古豪ボルシアMGが首位を守り続けるブンデスリーガだろう。

 70年代に黄金時代を築き、ネッツァーやフォクツ、ボンホフやシモンセンなどを輩出して(わたしを含めた)世界中のファンを熱狂させたボルシアMGだが、80年代以降は鳴かず飛ばずの時代が続いた。理由はいたって簡単で、ホームとしていたベーケルベルクが(味わいはあっても)みすぼらしく、かつちっぽけだったからである。かなりの割合を占める立ち見席に人を詰め込んでも3万人が精いっぱいのベーケルベルクは、貪欲になる一方だった選手たちの金銭欲を満たすには十分ではなかった。

 一度ならず2部への降格まで経験した古豪の復活は、現代のサッカーで成功する上に何が必要かということを教えてもくれる。
 一つは、言うまでもなく近代的なスタジアムの存在。収容人数が5万人を超えるボルシア・パルクが建設されたことで、財政上の柱は一気に太くなった。

 とはいえ、巨大スタジアムを有するライバルに比べるとボルシア・パルクの規模は決して大きくない。縮まったとはいえ、確実に存在はしていた格差を埋める上で大きな働きを果たしたのが、08年にスポーツダイレクター(SD)に就任したマックス・エベール氏の存在だった。

 彼の信条は「クオリティーを売ってポテンシャルを買う」。テア・シュテーゲンをバルサに売ればスイスからゾマーを買い、トルガン・アザールをドルトムントに売ればフランスからテュラムとエムボロを買う。育て上げた完成品を高く売り、可能性のある若手に投資するという手法は、沈没寸前だった名門を欧州の舞台にまで復帰させた。

 つまり、大切なのは器と人。ボルシアMGの復活はそのことを教えてくれる。いまのところ、JリーグではエベールSDのように脚光を浴びる「管理職」は見当たらないが、下部リーグで結果を出した選手が即引き抜かれるようになった現状を鑑みるに、機動力のある目利きは確実に育っているのだろう。個人的には、マリノスの選手獲得などは非常に面白いと思っている。

 だが、器に関しては頭が痛い。専用競技場が少ないから、ではない。専用競技場をホームとするチームがふがいないから、である。

 J1の順位表を下から眺めていただきたい。降格の可能性がある10チームのうち、実に9チームが専用競技場をホームにしていることがわかる。こんな体たらくで、どうやって専用競技場の建設を渋る自治体や役所に、メリットを説くことができようか。町おこしにつながると胸を張れようか。

 広島カープの躍進は、スタジアムの持つ意味の大きさを野球界に知らしめた。だが、いまのJリーグに、そうした存在はいない。(金子達仁氏=スポーツライター)

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