【コラム】金子達仁

ラグビーW杯後の芝「どうだった?」

[ 2019年11月7日 15:00 ]

宮城県山元町で育てられた「復興芝生」はロール状にして豊田スタジアムに運ばれた
Photo By スポニチ

 冬でも青々とした芝生を育てるのは不可能だとされていた時代が、この国にはあった。確か、芝生が青さを保つには、日本の冬は寒すぎる……とかなんとか言われていた気がする。

 なるほど、だったら日本よりも緯度の高い英国や、アルプスに近接する南ドイツや北イタリアの方が日本よりも暖かいんですね――とツッこむこともせず、そうなのかと鵜呑(うの)みにしてしまっていた当時の自分が情けない。

 なんにせよ、90年代の頭まで、天皇杯の決勝や高校サッカーは茶色の芝生の上で行われるのが常だった。世界中に中継されるトヨタカップでは、せめて見栄えだけでもなんとかしようと、着色剤で強引に緑に染めたこともある。

 いまから思えば何とも情けないアイデアだが、そのことを批判したり嘲笑したりする記事は読んだ記憶がない。当時のメディアやファンが心配していたのは、芝生の色ではなく、芝生のコンディションだった。トヨタカップの1週間前は、ラグビーの早明戦が行われるのが常だったからである。

 ラグビーは芝を荒らす。わたし自身、21世紀に入るまで固く信じてきた。後に国立競技場のグラウンドキーパーの方から「芝生を傷めるという点からすると、サッカーのGKが一番なんですけどね」と言われるまで。スクラムは確かに芝生を荒らすが、グラウンドのあちこちで満遍なく行われる。ところが、一カ所に留(とど)まり、かつスパイクで芝生を削って目印をつけたりするGKの行為は、芝生にとって「荒らし」を超えた「虐殺」レベルなのだという。

 もちろん、イメージほど芝生にダメージを与えることはないとはいえ、大男によるスクラムが地面にアンジュレーションを作ってしまうのも事実。実際、芝生が茶色かった頃の国立は、グラウンダーのスルーパスがぴょこぴょこと跳ねてしまうようなグラウンドだった。

 なので、いま、わたしが非常に気になるのが、大分や熊本、横浜やFC東京の選手たちの感想である。

 「グラウンド状態、どうだった?」

 映像などで見る限り、ラグビーW杯の各会場の芝の状態はどこも素晴らしかった。芝生を荒らすどころか、試合をやった気配すらあまり感じさせない会場もあった。人工芝と天然芝を組み合わせたハイブリッド芝の威力?各会場のグラウンドキーパーの方々の力?果たして、久しぶりに帰って来たサッカー選手たちの感想はどうなのか。

 もし「問題ない」との答が多く返ってくるようであれば、新たな可能性を考えることができる。

 一つのスタジアムをラグビーとサッカーで共有することに何の問題もないということになれば。

 これまで、専用競技場の建設に関してはラグビー界とサッカー界、それぞれが別個に動いてきた。だが、今後は企画立ち上げの段階からサッカーとラグビーが手を組んで、というやり方ができるようになる。

 先進国の中では専用競技場が極端に少ない現状を打破するには、もうそれしか方法はないかもしれない。(金子達仁氏=スポーツライター)

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