【コラム】金子達仁

“異端者”ライプツィヒは欧州CLの歴史を変えるか

[ 2019年9月19日 15:30 ]

リーグ戦3勝1分けで開幕ダッシュに成功し、CLではアウェーでの初戦ベンフィカ戦を2-1で勝利したライプツィヒの32歳ユリアン・ナーゲルスマン監督
Photo By AP

 伝統対新興。異なるバックボーンを持つ両者の対決は、どんな世界、どんなジャンルであっても人々の興味をそそる。積み重ねてきた歴史を愛する人がいれば、巨大勢力に挑む勇気に共感する人もいる。どちらが勝つかは、もちろん、誰にもわからない。

 ただ、こと欧州のサッカーに関して言うならば、新興チームがのし上がっていくのは簡単なことではない。いや、世界中どこのリーグにとっても、伝統のないチームが風格を身につけていくのは難しいことなのだが、欧州の場合、特にそうだと言っていい。

 欧州CLの歴史をみればそれは一目瞭然だ。チャンピオンズ・カップがチャンピオンズ・リーグに変わった92年以来、ビッグイヤーを“初めて”掲げることを許されたのは、マルセイユ、ドルトムント、チェルシーの3チームのみ。それ以外の24度は、ことごとくチャンピオンズ・カップ時代に優勝経験のあるチームが栄冠をつかんでいる。ちなみに、決勝が優勝経験のない2チームで争われたことは、ただの一度も、ない。

 さらに言うなら、数少ない“初優勝組”の3チームにしても、それぞれの国では創立100年以上の歴史を誇る名門であり、欧州の舞台にあっても、強豪としての地位と名声は手にしていた。

 だが、今季か、あるいは近い将来、新参者に厳しい欧州CLの歴史にくさびが打ち込まれることになるかもしれない。伝統どころか、欧州サッカー界における極めて重要な“しきたり”に叛(はん)旗(き)を翻したチームによって。

 Jリーグも重視する地域密着の思想は、もちろん、欧州のサッカーに原点を持つ。チームは地域のもの、ファンのものであって、一企業の所有物ではない。それが、1世紀以上にわたって受け継がれてきた欧州サッカーの常識だった。

 RBライプツィヒは、巧妙に、しかし全面的にそうした常識に挑みかかった。清涼飲料水メーカーの「レッドブル」を母体とするこのチームは、“芝生球技(頭文字はRB)”なる造語を編み出し、原則として企業名を入れてはならないというブンデスリーガのルールをくぐり抜けた。

 10年前、旧東ドイツ地域の5部に所属していた弱小チームは、今季、ブンデスリーガの首位を走り、CLの初戦ではアウェーでベンフィカを退けた。その掟(おきて)破りともいえる成り立ちは、ドイツの多くの地域で盛大な反発を引き起こしているが、旧西ドイツのチームに太刀打ちできない時代が長く続いたこともあり、地元ライプツィヒでは熱狂的な支持を受けている。

 正直、ブンデスリーガとCLを両立させていくにはいささか層が薄い気もするが、ベストメンバーでの戦いであれば、もはや絶対王者バイエルンにもまったくヒケを取らないところまできている。

 もし彼らがCLで勝ち上がっていくようなことになれば、異端とされたその成り立ちが、新しいあり方として認知される大きなきっかけになるかもしれない。同じくCL初戦を圧勝した隣国の兄弟チーム、南野、奥川を擁するザルツブルクの戦いぶりと共に、注目していきたいと思っている。(金子達仁氏=スポーツライター)

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