【コラム】金子達仁

影響力大きい高校野球 先陣切って「対暑」を

[ 2019年8月9日 05:30 ]

 暑い。ほんの数十メートル歩いただけで汗が噴き出してくる。こんな暑さの中で体を動かすなんて、想像しただけで気が遠くなる。

 おそらく、来年の今頃も同じような夏になっているはずで、五輪に関わる人たちはいろいろと頭が痛いことと思う。選手や観客が熱中症で倒れるかもしれない危険性は、近年の大会の中で間違いなく最大。万が一にも深刻な事態が起きることを避けるべく、さまざまな知恵が絞られているはずだ。

 ところが、五輪に参加するような超一流のアスリートのためには講じられる暑さ対策が、なぜか日本のアマチュア・アスリートには講じられていない。いや、まったく皆無というわけではないのだろうが、どうにもおざなりというか、本気さが伝わってこない。

 たとえば高校野球。地方大会では、暑さ対策として第1試合の開始時間を1時間早くしたところもあったようだが、恩恵を受けられるのは第1試合に登場する2チームだけである。

 炎天下での試合も1試合だけならば対処もできる。ただし、それが連戦となってくると不測の事態が起きる危険性は倍加する。高校野球がまず取り組むべきは、投手の球数制限よりも日程の調整のはず。すべてのチームが中4日で試合をこなす日程になれば、剛腕を擁した公立校が自ら甲子園を諦めることもなくなる。プロよりも過酷な日程と忍耐を強いて「それが高校野球」と平然としている大人には、怒りを通り越して失笑するしかない。

 大会につきものの開会式、閉会式については、もはや失笑すら出てこない。完全な時代錯誤。五輪にも開会式、閉会式はあるが、選手には参加しない権利も認められている。スポーツの祭典の一幕とはいえ、スポーツではないイベントに参加することでコンディションを崩してしまっては本末転倒…というアスリート・ファーストの思想が根底にあるのだろう。

 もしこれからも開会式を続けるというのであれば、五輪同様の開会式になってほしい。つまり、選手に参加しない権利と、いままで参加資格のなかったベンチ外の選手やマネジャーに参加する権利を与えてほしい。いずれ試合で檜(ひのき)舞台に立つことのできる選手だけでなく、スタンドから眺めることしかできない選手たちにも、甲子園の土を踏む機会をあげてほしい。縁の下の力持ちもメインスタジアムを闊(かっ)歩(ぽ)することができる五輪の精神を、ぜひとも高校野球に取り込んでほしい。

 高校野球は、いまも昔も日本人に極めて大きな影響力を持つスポーツイベント。高校野球が変われば日本のスポーツ全体が動きだす。灼(しゃく)熱(ねつ)の太陽のもとで連戦が行われているインターハイも、甲子園がアスリート・ファーストに舵(かじ)を切れば「このままではいけない」という機運が高まってくる。

 幸いなことに、夏の高校生の大会で命を落としたというニュースは聞こえてきていない。だが、いままでとは違う暑さの中で、いまほどは暑くなかった時代の常識にこだわっていると、いつか、取り返しのつかないことが起きる。そうならないために手を打つのが、真のアスリート・ファーストでありスポーツに関わる大人の責任だと思うのだが。(金子達仁氏=スポーツライター)

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