【コラム】金子達仁

Jのゴールを守る若きカナリアをもっと見たい

[ 2019年4月26日 05:30 ]

<J1 第4節 神戸1-1清水>前半、ボールをキャッチする神戸GK前川黛也(撮影・後藤 大輝)  
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 暗闇の奥に淀(よど)む有毒ガスの危険を、カナリアは人間よりも早く察知する。ゆえに、金融の世界では株価の急落や景気変調のシグナルとして「炭鉱のカナリア」という慣用句が使われる。

 ちなみに、為替市場では金の相場や原油価格などが「炭鉱のカナリア」として知られているが、サッカーの世界にも、近未来の情勢を一足早く知らしめてくれるカナリアがいる。

 GKである。

 なぜGKが「炭鉱のカナリア」なのか。それは、このポジションが天から与えられるものではなく、育てる以外にないポジションだから、である。

 つまり、マラドーナはアルゼンチン人だが、彼がアルゼンチンに生まれたことには何の必然もなく、かつ、どこの国に生まれたとしても、マラドーナはマラドーナだったろう。それぐらい、彼のプレーには努力などではいかんともしがたい次元のものがちりばめられていた。

 だが、反復練習をプレーのベースとするGKの場合、才能と同じ、いや、それ以上に環境が重要になってくる。根気よく単調な練習に付き合い、その意味を納得させていく指導者も必要になってくる。自由にやらせておけば羽ばたいてくれることもあるアタッカーと違い、GKの育成にはとにかく時間と労力がかかるのである。

 GKは、人口比で言えば10%にも満たない少数派で、しかも、チームを勝たせることはできないポジション。そんな選手のために時間と労力を注ぐことのできる環境と指導者が、他のマジョリティーたちにとってマイナスになるわけもない。

 スペインしかり。スイスしかり。ベルギーしかり。21世紀に入って存在感を増した国の多くは、21世紀に入って世界的GKを輩出するようになっている。わたしが、GKをカナリアと考える所以(ゆえん)である。

 それだけに、Jリーグに外国人GK、特に韓国人GKの増えていくことが、わたしには懸念のタネでもあった。日本サッカーが急激な成長を遂げた20世紀後半から21世紀にかけての時期には、見られなかった傾向だからである。

 ただ、先日お話をうかがった楢崎正剛さんが興味深いことを言っていた。

 「この間若い世代のGKたちを見る機会があったんですけど、僕らの時代では考えられないような、サイズがあって俊敏な子が出てきてるんですよ」

 だとしたら、一般のファンにはまだ見えにくいところで、日本サッカーの未来は育まれつつある。危険を、ではなく、可能性をさえずるカナリアが育っていることになる。

 勝手なもので、そう聞くと俄然(がぜん)Jの若いGKに対する関心も高まってきた。目下のところ、わたしのお気に入りは神戸の前川。元日本代表GKだったお父さんに比べると、まだ高いボールに対する判断に難はあるものの、フィード能力の高さや、何より、反応の早さは素晴らしい。松本戦の後半34分に見せたセーブは、早くも年間最高セーブは確定か、と言いたくなるほど超人的だった。

 監督が代わったことで再び控えに回った前川だが、それもまた今後への糧。彼を含めて、若いカナリアがゴールマウスで羽ばたく姿をもっと見たい。(金子達仁氏=スポーツライター)

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