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【コラム】金子達仁

4年後を思い描け この敗北はW杯の「ドーハの悲劇」である

[ 2018年7月4日 18:40 ]

ベルギー戦に敗れ、落胆する日本代表メンバー
Photo By ゲッティ イメージズ

 勘違いしてはいけない。絶対に。絶対に。

 世界中が絶賛するであろうこの壮絶な逆転負けは、悲劇ではあったものの、悲運だったわけではない。運がなかったのはむしろベルギーの方だった。もし日本が勝ち上がっていれば、ベルギー人たちは0―1とされた直後のE・アザールの一撃を、強烈に右ポストを叩いたあのシュートを、嘆き続けたことだろう。

 日本は、弱いから負けたのだ。

 日本の選手を批判するつもりは毛頭ない。彼らは、本当によく戦った。日本サッカー史上、間違いなく最高の戦いぶりだった。原口の鮮やかな先制点、乾の美しい無回転ミドルは、日本人のみならず、世界のサッカーファンの記憶に長く残っていくことだろう。いまの日本に、あれ以上のことはできない。そう断言してもいい試合だった。

 だから、悔しい。

 持てるすべての力を発揮してなお、日本の力は足りなかった。全員が涙をこぼすほど献身的な働きをし、劣勢に立たされても戦うこと、美しくつなぐことを諦めず、2点をリードしてもなお、力が足りなかった。

 だが、わたしたちは知っている。

 かつて、同じように血の涙を流したことがあった。ほぼ手中に収めていた夢舞台へのチケットを、イラク人のヘディングシュートで失ったことがあった。

 魂が叩きつぶされるようなあのときの思いは、しかし4年後、ジョホールバルの歓喜につながった。夢舞台だったW杯が、出なくてはならないもの、絶対にして最低のノルマとなったことで、日本のサッカーはアジアの壁を越えた。

 この痛恨の敗北は、だから、W杯におけるドーハの悲劇である。夢舞台だったベスト8を、世界の頂点を、現実的な目標として捉えるきっかけとなる血の教訓である。

 アジアの壁を越えるために、日本人はJリーグをアジア最高のプロリーグに育て上げた。ならば、世界の壁を越えるためにやるべきことは決まっている。

 Jリーグを世界最高峰のリーグにするか、世界最高峰のリーグでプレーする日本人を増やすか、である。

 これから日本が戦うのは、サッカーが日常に根付き、週末の結果や内容に論争が起きる国々である。陸上トラックのない、ファンの目が高密度で注がれる専用競技場でプレーしている選手たちである。

 いまのままでは勝てない。選手や現場の力だけではどうしようもない。

 W杯になれば群がり、大会が終われば去っていくメディアと国民に支えられたチームが、どうやって欧州や南米を圧倒しようというのだろう。W杯にならなければ国民的注目を集めることのできない選手たちに、どうして普段どおりの力を出せと要求できるだろう。

 「代表は盛り上がりましたけど、今後はJリーグもお願いします」

 21年前、初のW杯出場が決まったあとに中田英寿さんが口にした願いは、いまなお叶(かな)っていない。

 だが、願わなければ日本は変わらない。日本が変わらなければ、日本代表がW杯で勝つ日は来ない。

 いまはただ、この敗戦の痛みに身を委ねよう。そして強く、強く思い描くのだ。

 4年後の日本代表が、かつて悲劇に見舞われた地で劇的な勝利に涙することを。

 ドーハの奇跡の実現を。(金子達仁氏=スポーツライター)

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