【コラム】金子達仁

忌まわしい歴史にのみ込まれ、スペインは消えていった

[ 2018年7月3日 18:00 ]

代表引退を表明したイニエスタ(AP)
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 またしても!またしても!またしても!

 ロシアの人々にとって、これはサッカーにおける「大祖国戦争」と言ってもいい。血と、鉄と、大地の力でナチス・ドイツの猛攻を凌(しの)ぎきったあの戦い。モスクワまであと十数キロのところまで攻め込まれながら、2000万人とも2800万人とも言われる犠牲者を出しながら、最後は侵略者を撃退したあの戦い。これはもう、間違いなく世紀の番狂わせである。

 わたしは本来、守備的なサッカーには批判的な人間である。だが、この日のロシアにケチをつける気にはとてもなれない。サッカーが国民性の表れるスポーツだというのであれば、スペインという最強の敵を相手に彼らが展開したサッカーは、ロシアの歴史や国民性に深く根ざしたものだと思うからである。

 スペインは、ロシアのサッカーを突き崩せなかったのではない。ロシアの歴史の前に屈したのである。

 そして、サッカーの歴史に。

 初戦で大きなミスを犯した優勝候補のGKは、チームを救うことができないという歴史に。

 アキンフェーフとデヘア。GKとしての世界的評価から行けば、圧倒的に後者が上である。だが、ここまでノーミスで来た前者に対し、デヘアは初戦のポルトガル戦で大きなミスを犯していた。

 36年前、やはり初戦で大きなミスを犯したブラジルのGKパウジール・ペレスは、その汚名を晴らすことなく大会を去った。W杯の女神は失態を演じた守護神に冷たい。2週間前のスポニチでわたしはこんなことを書いた。

 「どんなチームであっても、W杯で優勝するためにはGKが神懸からなければならない試合がある。そして、神懸かるためには守護神の心中に一片の不安すらあってはならないとわたしは思う。

 スペインは強かった。2度目の優勝に十分値するチームであることは証明した。だが、本当に勝つためには、デヘアが歴史に挑戦しなければならない。ミスを犯したGKがのみ込まれてきた、忌まわしい歴史に」

 だが、彼もまたのみ込まれてしまった。

 アキンフェーフは2本のPKをストップしたが、デヘアは3本、ボールに触っていた。触っていながら、はじき出すことができなかった。彼クラスのGKからするとありえないようなことが、よりによってこの大一番で起こってしまった。

 ミスを犯した守護神をかばい、先発で起用し続けたイエロ監督の判断は、実に合理的である。歴史?ジンクス?そんなものを理由にメンバーをいじるのは、単なるオカルトにすぎないという見方もあるだろう。

 だが、現実にデヘアはただの1本もPKを止めることができず、スペインは消えた――。

 ドイツが消え、アルゼンチンが消え、スペインが消えた。どうやら、天然芝と人工芝の配合比率が50対50だというロシアのハイブリッドは、素早いパス回しをするチームに厳しいようだ。

 番狂わせは、まだ起きる。

 こうなったら、もう驚かない。ロシアがW杯で優勝しようが、世界中の誰もがアウトサイダーだと見ている国が優勝しようが。(金子達仁氏=スポーツライター)

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