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【コラム】金子達仁

「対策」の勝利に今後の迷走も予感した オーストラリア戦

[ 2017年9月1日 11:00 ]

<日本・オーストラリア>試合後、田嶋幸三日本サッカー協会会長(左)と喜ぶハリルホジッチ監督
Photo By スポニチ

 オーストラリアと言えばパワフルなチーム――すっかりそんな印象がついてしまったが、90年代後半から00年代にかけての彼らは、欧州でプレーする何人かのスターを擁する、かなりテクニカルなチームだった。

 それが劇的に方針を変えたのは、ひとつの成功体験だった。06年6月12日、カイザースラウテルンで行われた日本戦の勝利である。

 この時オーストラリアの監督を務めていたのはオランダ人のフース・ヒディンク。彼は、日本のスタイルや弱点を徹底的に研究し、言ってみれば日本戦のためにチームのやり方も変えた。少なくとも、予選プレーオフでウルグアイと戦った時とはまるで違うやり方をとった。

 そして、それがはまった。原始的で、野蛮で、洗練されたフットボールを好む人間からは嘲笑の対象にもなったが、日本に対しては素晴らしく効果的だった。日本を率いていたジーコ監督が、相手うんぬんよりまず自分たちのスタイルにこだわったことを考えれば、まったく対照的な戦い方だった。

 つまり、主体的に戦うチームではなく、対策のチーム――それがヒディンクのオーストラリアだった。

 決してヒディンクがパワープレーの信者でないことは、02年の韓国やPSVのサッカーを見ればよくわかる。彼は、単に相手と状況によってやり方を変えるタイプの監督だったのである。

 あれから11年。日本とオーストラリアは見事なまでに立場を変えていた。

 かつて日本がこだわったボール保持率に、この日のオーストラリアは愚直なまでにこだわった。決してボール扱いが長(た)けているとは思えないDFも、安全第一ではなくつなぐ道を模索した。そして、オーストラリアがそうしてくることを完全に予想していた日本は、そこに焦点をあてた戦い方をとった。

 主体性を持って戦ったのはオーストラリアで、対策で戦ったのは日本だった。

 そして、今回も対策で戦ったチームが勝った。

 言うまでもなく、対策を立てたハリルホジッチ監督にとっては会心の勝利だろう。試合後、感極まって涙をこぼしたのもわからないではない。日本と戦ったヒディンクが見事だったように、この日の彼は見事だった。

 ただ――。

 なぜあれほど効果的だった日本相手のパワープレーをオーストラリアは捨てたのか。日本には通用しても、世界には通用しないと考えたからではなかったか。結果だけにこだわる外国人監督がやらなかったことを、現在だけでなく未来も視野に入れた自国出身の監督がやってみたいと考えたからではなかったか。

 今回の勝利で、ハリルホジッチ監督は一躍名将と祭り上げられるだろう。主体性のサッカーではなく、対策のサッカーこそが正しいと考える人も増える。長くポゼッションにこだわってきた日本サッカーは、大きな転換期を迎えるかもしれない。W杯出場はむろん喜ばしいことながら、今後の迷走の可能性も予感させる、今回の勝利である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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