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【コラム】金子達仁

日本代表の志が問われる一戦 オーストラリア戦

[ 2017年8月31日 11:00 ]

日の丸を背にランニングする日本代表イレブン
Photo By スポニチ

 美空ひばりさんが歌った「柔」という曲の中に「勝つと思うな思えば負けよ」という有名な一節がある。その解釈は人によって異なるが、わたしは、無欲で戦うことの強さや可能性を歌ったものだと思っている。ある種、日本人の勝負観を象徴する歌といってもいいかもしれない。

 一方で、欧米の指導者がよく口にする「勝者のメンタリティー」は、「柔」とは正反対に位置する発想である。まず勝つことを前提とし、そこに到達するために何をすべきか考える。「勝ったことのないやつは、勝てない」と言っていたのはブラジル代表の主将ドゥンガだった。

 どちらの考え方にも文化的な背景があり、また、一長一短もある。ただ、サッカーに適した考え方はどちらかと問われれば、わたしは後者と答える。サッカーは、無欲を美徳とする日本ではなく、19世紀の英国で生まれたものだからである。

 オーストラリアとの決戦を前に、思わぬ「朗報」が飛び込んできた。暫定首位に立つチャンスのあったサウジアラビアがUAEに逆転負けを喫したため、日本としては仮にきょう、オーストラリア戦に敗れたとしても、最終戦で引き分ければ本大会への出場が決まるというのである。

 あえて「朗報」とカッコ付きにしたのは、予選突破のことだけを考えるのならばともかく、本大会での戦いを考えた場合、予選で修羅場をくぐっておくのもプラスになる、との思いも捨てきれないからである。何にせよ、日本がこれでグッと楽になったのは間違いない。

 これで、きょうの試合は日本代表選手たちの志が問われる一戦となった。

 失笑、嘲笑(ちょうしょう)の対象にもなったが、わたしは、4年前に本田圭佑がW杯での優勝を目標として公言したことを高く評価している。

 サッカーは、勝とうと思わなければ勝てないスポーツだと信じるからである。

 ご存じの通り、W杯ブラジル大会での日本は大きな挫折を味わった。日本代表の選手が大きな目標を口にすることもなくなってきた。大会終了後に彼らが浴びた非難を考えれば、わからなくもない。

 だが、この4年間の間に、サッカー以外の日本人アスリートはどんどんと世界で結果を残すようになった。夢物語とされた100メートル9秒台でさえ、現実的な目標となりつつある。

 では、100メートル9秒台は無欲で達成できるものなのか?違う。達成するためのトレーニングと発想がなければできるものではない。

 だから、思う。口にしなくてもいい。それでも、日本代表に関わる者はW杯優勝に焦がれ続けてもらいたい。優勝するために日々をどう過ごすべきか考える存在であってもらいたい。

 思いのない者は、予選突破の可能性が高まった現状に安堵(あんど)する。秘めた志を持つ者は、こんなところでつまらない試合はしていられない、と考える。

 多いのは、どちらか。

 きょう、わたしが注目するのはその一点である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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