×

【コラム】金子達仁

主力流出に憤ったバルサ 温かく送り出したレッズ

[ 2017年8月11日 06:00 ]

バルセロナからパリSGに移籍したネイマール
Photo By AP

 先月、ブラジルで行われたストリート・サッカーの世界大会「ネイマール・ジュニア5」には、豪華な、というか極めて特別な優勝特典が用意されていた。カンプ・ノウVIP席での試合観戦と、バルセロナにあるネイマール家への招待である。

 あの大会に優勝したルーマニア人たちの、困惑しきった顔が目に浮かぶ。セレモニーで彼らを祝福したネイマールは、確かに「バルセロナで会おう」と言っていたのだから。

 ともあれ、ネイマールはバルサを去った。興味深かったのは、この移籍に対するバルセロニスタたちの反応である。

 印象としては、激怒一色。

 過激な物言いが飛び交うのがネットの特性とはいえ、今回のネイマールの移籍をルイス・フィーゴのケースと重ね合わせる人が多いのには正直言って驚いた。

 バルサからレアルへ移籍するということは、日本で言うならば阪神の大黒柱がFAで巨人に移籍するようなものである。わたしだったら激怒するし、当然、バルセロニスタもそうした。フィーゴが敵としてカンプ・ノウにやってきた時、狂信的な観客の一人が豚の首を投げ入れたことは、よく知られたエピソードである。

 だが、今回ネイマールが新たなチームとして選んだのはパリSGである。

 フィーゴがレアルへの「禁断の移籍」を決断する2年前、バルセロナからはもう一人のスター候補生がチームをあとにしていた。「才能ではラウールより上」と評する人も多かったイバン・デラペーニャである。

 スタメンとしてバリバリ活躍していたフィーゴと違い、ファン・ハール体制になってからのデラペーニャは出場機会が少なくなってきてはいた。とはいえ、15歳からカンテラで育ち「クライフの子供たち」の中でも最高の才能とされた彼は、ファンにとっては宝石のような存在だった。

 それでも、あの時、デラペーニャの移籍に対して激怒していたファンはほぼ皆無だった印象がある。それよりは、壁にあたったかわいい息子を旅に送り出す親が発するような空気があった。

 あのころのバルサはスペインのビッグクラブだった。いまは、世界のメガクラブである。チームの規模が変わり、ファンの意識も変わったということなのだろう。バルサに見切りをつけ、レアルに移籍するのだけは許さなかったファンは、バルサに見切りをつけること自体を許さなくなった。

 時期をほぼ同じくして、日本では浦和・関根の移籍が決まった。直前まで秘密裏に話が進められていたところはネイマールとそっくりだったが、ファンの反応はまるで違った。別れを惜しみつつ、新天地での成功を祈る声が圧倒的だった。ちょうど、デラペーニャの時がそうだったように。

 今後、レッズのファンはどう変わっていくのか。いまのバルサに近づくのか。親心を感じさせるファンであり続けるのか。これは日本サッカー界にとっても非常に興味深いサンプルである。(金子達仁氏=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る