×

【コラム】金子達仁

香川と岡崎のゴールは必ず成長の糧となる

[ 2017年3月29日 18:12 ]

W杯アジア最終予選B組   日本4―0タイ ( 2017年3月28日    埼玉 )

<日本・タイ>前半、岡崎がヘディングでゴール
Photo By スポニチ

 実を言えば、スタメンを見た時点で若干の失望はあった。

 GKは川島なのか。

 UAE戦での価値ある勝利に、彼の果たした役割が大きかったことを否定するつもりはさらさらない。前半20分のビッグセーブがなければ、負けていた可能性すらあった試合ではあった。

 とはいえ、アウェーでのUAE戦と、ホームでのタイ戦では目的とするものも相手の強度もまるで違う。求められるのはセーブ力の高さではなく、11人目のフィールドプレーヤーだとわたしは思った。

 ならば、西川だろうと。

 だが、早い時間帯での香川の一撃が、そんなモヤモヤをすべて振り払ってくれた。

 あの1点で、捨て身を気取ろうとしていたタイの虚勢は一気に崩れた。勝つ気はない、しかし恥はかきたくないというチームは、無失点の時間を重ねていくことで化けていく。2次予選でぶつかったシンガポールは、まさにそういった相手だった。香川の先制点が、第二のシンガポールを誕生させる可能性を摘んだのだ。

 意外だったのは、ゴールを奪った直後の香川の喜びようだった。いくらハリルホジッチ監督がこの試合の重要性を口酸っぱく説いていたとはいえ、タイがそれほど難しくない相手だということは、少なくともファンは感じていた。ゴールの瞬間に湧き起こった歓声のテンションは、だから、稀勢の里が照ノ富士を倒した瞬間に比べれば、ずいぶんと控えめなものだった。

 ところが、ゴールの直後に香川が見せた喜びようは、天下分け目の決戦で得点を決めた選手の側に近かった。彼ほどのキャリアがあり、彼ほどの多くのゴールを決めてきた選手からすると、いささか不似合いなぐらいに大仰だった。

 それぐらい、香川はこの試合に懸けていたのだろう。それぐらい、所属チームで、代表で追い詰められていたのだろう。

 岡崎についても、またしかり。

 重圧の中で残した結果ぐらい、選手を成長させるものはない。では、重圧とはいかにして生み出されるものなのか。周囲?それもある。だが、第三者には悟られずとも、自身が懸ける思いを抱いて臨んだ試合であれば、そこで残した結果は間違いなく成長の糧となる。そういった意味では、素晴らしく大きな意味を持つ勝利でもあった。

 ただ、この試合における最大の驚きは、香川や岡崎の喜びようなどではない。

 タイの奮闘だった。

 彼らがロシアにたどりつく可能性は、とうの昔にほぼ断たれている。そんな状況で早い時間に喫した先制点。わたしは、タイの崩壊を予想したし、おそらく、日本の選手も「これで楽な展開になる」と思ったはずである。

 予想は、裏切られた。

 今回は勝った。しかし、この試合を見たタイの若者たちは、自分たちの才能が敵地でも日本を苦しめ得ることを知っただろう。4年後は、もっと難しい試合になる。そう痛感させられた一戦でもあった。

 予想が外れたのはもうひとつある。川島のPKストップ。正しかったのは、またしてもハリルホジッチだった。(金子達仁氏=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る