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【コラム】金子達仁

破壊的ドリブラー学に必要な得点の意識

[ 2017年3月10日 06:15 ]

 ひょっとしたら、昨年の名古屋に続き、今年もオリジナル10の降格があるのではないか。開幕前はそんなことを思っていた。

 マリノスがヤバいのではないか、と。

 まだたった2試合が終わっただけの段階で、太鼓判など押せるはずがない。ただ、ここまでの彼らには、昨年の広島カープと同じ気配を感じる。つまり、大黒柱を失ったがゆえの、若手の奮起と脱皮である。

 中でも、今年から背番号10をつける斎藤の活躍には、目を見張らされるものがある。

 愛媛時代からその突破力には定評のある選手だったが、今年の破壊力は特に凄い。彼が左サイドでボールを持つと、相手選手は間違いなく2人、時には3人が引き寄せられる。当然、中はがら空きになり、チームは面白いように得点を重ねている。17年3月現在、日本でもっとも客を沸かせられるアタッカーと言ってもいいだろう。

 だが、このままではいけない。

 近年のJリーグの場合、たとえばブンデスリーガなどに比べると、サイドでの自由度がかなり大きい印象がある。ブンデスリーガではあまり見ることのできないサイドにおける1対1の攻防が、明らかに多いのだ。

 これは善しあしの問題ではない。DFが1対1で食い止めることを前提としている日本に対し、ドイツではやられることを前提にしている、ということ。サイドから崩される危険性を重視する彼らは、ゆえにできる限り2対1の状況をつくる。サイドに守備の人数を割くことを前提に、中央の守備も組織されている。斎藤のようなタイプに守備を破壊されないための、組織でもある。

 長く、日本には斎藤のような破壊的なドリブラーがいなかった。ここ2試合、彼が暴れまくったのはそれゆえでもある。だが、今後は各チームが対策を立ててくる。その時、斎藤はどうするのか。どうするべきなのか。

 得点が必要になってくる。

 誰の目にも明らかな活躍を見せている一方で、今季、斎藤にはまだゴールがない。先週末の札幌戦では、結果的に得点にはつながったものの、決定的な場面を外している。

 10代のころの中田英寿さんは、練習でシュートがほとんど入らない選手だった。だが、理由を聞いて得心がいった。

 「だって、練習でゴールポストの内側を叩けないようじゃ、試合で入るわけないでしょ?」

 サッカーにおける得点とは、才能の発露であると同時に、意識の産物でもある。元来、得点よりもアシストに魅力を見いだしていた中田さんは、しかし、イタリアでの1年目にゴールを量産した。攻撃的なポジションの外国人選手に何が期待されているか、計算しつくした上での変身だった。

 わたしは、斎藤の得点能力は中田さんを大きく凌駕(りょうが)していると思っている。それでも得点が少ないのは、単に、意識の問題である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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