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【コラム】海外通信員

インテルに欠ける ビジョンを描けるリーダー

[ 2016年12月10日 21:30 ]

 ビンチェンツォ・モンテッラ監督を迎えたミランが2位を快走する一方で、同じミラノを本拠とするインテルの調子が出ない。エリック・トヒル会長が経営権を取得し、銀行から融資を受けるという形で資金繰りに目処を立てて強大補強を行ったものの、それがことごとくうまく行っていないのだ。いや、マルセロ・ブロゾビッチやイバン・ペリシッチなどはちゃんと戦力になっているから、『ことごとく』という言い方には語弊があるかもしれない。しかしながら、合計で6600万ユーロもの大金をはたいて呼び寄せたタレントは、今のところその力を引き出すまでには至っていない。

 1人は、約3600万ユーロの移籍金で昨年の夏にやってきたジョフレイ・コンドグビアだ。パワーと技術を兼ね備えるミッドフィルダーの補強を希望していたロベルト・マンチーニ監督(当時)は、モナコに所属していたこの若きタレントに心酔。「彼を取らなければ辞めてやる」とフロントに突きつけて、当時ミランが交渉で先行していたところを強引に説き伏せて獲得した。1年目の外国人選手には厳しいと言われるセリエAでは案の定苦労するものの、尻上がりに調子を上げて主力に定着した。今季はさらなる飛躍が期待されたものの、出場機会は激減。試合に出ても、精彩を欠いたパフォーマンスでインテルサポーターからブーイングをくらい、本人も気にして調子を落とすという悪循環。前半のうちに交代を命じられることも度々だった。

 もう1人は、”ガビゴル”の愛称で知られるガブリエウ・バルボーザだ。ネイマールに続くタレントとして期待される彼は、若くしてセレソン入りを果たしてコパ・アメリカに出場し、リオ五輪男子サッカーの金メダル獲得にも貢献した。この夏の目玉補強としてインテルは約2950万ユーロの移籍金をつぎ込んでミラノへ呼び寄せた。ところが、今季の出場はたったの一度。フランク・デ・ブール元監督や、その解任後に一時的に指揮をとったステファノ・ベッキ監督代行は「まだイタリアサッカーに慣れていない。彼は学ばなければならない」と語ってはいたが、実戦に出て学ぶチャンスも彼には与えられていない。

 しかし、問題は選手どうこうではなく、クラブのマネジメントが多分に影響しているような印象を受ける。コンドグビアはマンチーニ監督が熱望した選手であるが、開幕直前に就任したデ・ブール監督は当然別の評価をして彼を干した。そしてまた別の監督がやってくれば、落ち着いて順応などできるはずもない。ガブリエウに至っては、監督側の強いリクエストがあったのかどうかさえ極めて怪しい。両者ともにこの冬は買い取り義務付きのレンタルか、もしくは完全移籍での放出も噂されているが、実力の世界とはいえ勿体無い話である。

 今のインテルには、現場を把握した上で将来へのビジョンを描き、チームを作ることのできるリーダーがフロントの中にいない。ユベントスでいえばジュセッペ・マロッタGMや、ミランではアドリアーノ・ガッリアーニ副会長など、経営指揮をとりつつ強化のコンセプトをちゃんと描ける優秀なフロントがいるが、欧州のサッカークラブ経営の経験そのものが不足していたインテルのフロントは、売り込みをかけた代理人の言うことに従って監督人事や補強を図っていたような状態である。11月に解任されたデブール元監督は「ナポリでもここまで来るのに7、8年掛かったというのに、インテルは2カ月で結果を求める」と嘆いていた。中長期的な視野でチームを育て、補強するような視野を持たなければ、迷走は今後も続くだろう。この夏に株式の70%を取得した中国の蘇寧グループは影響力を強めていくと思われるが、選手よりもフロントの”強化”の必要性に気づけるかどうかが、インテルの行く末を決める。(神尾光臣=イタリア通信員)

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