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【コラム】海外通信員

ファンが作り出す新時代のメディアとは

[ 2016年11月25日 06:00 ]

英SKY SPORTSが、2016年8月より開始たFAN TVと言う各クラブの一般人ファンを番組ゲストとして招待するトーク番組
Photo By 提供写真

 Youtube上にて一般の人々がオリジナル番組を世界に発信する時代の流れはイギリスのフットボール界でも着実に浸透しはじめている。

 試合終了直後のエミレーツスタジアムの出口。喜びに満ちた表情や、眉間に皺を寄せているファンに対してマイクを向け人気を博しているのが、一般人のアーセナルファンであるロビー・ライル氏が運営しているArsenalFanTVである。

 既存のマスメディアと一線を画しているのは、毎週末スタジアムに通っているごく普通のファンにインタビューの対象を絞り、話を聞き始めたことだ。時に過激な表現や不適切な内容も含まれるが、飾らないストレートな語り口がファンの声を代弁している。この新しいメディアのチャンネル登録者数は、すでに世界中で30万人近くに上っている。

 もちろんアーセナルファンだけでなく、他クラブでも独自のチャンネルが開設され、世界の各言語に翻訳がされている。ArsenalFanTVのライル氏は地元紙のインタビューで人気の秘訣を次のように語っている。

 「スタジアムに足を運んだファンたちが感じている生の情報を伝え、それを議論できるプラットフォームを作りたかった。よくテレビで目にする元サッカー選手達が語っているレビューは、本当にその試合を見たかどうか疑いたくなる時がある。スタジアムを訪れているファンの意見の重要性を取り戻したいとはじめたが、そこに視聴者が共感を覚えているのだろう」

 大手メディアもこの風潮を見逃してはいない。イギリスのSKY SPORTSは、2016年8月よりFAN TVと言う各クラブの一般人ファンを番組ゲストとして招待するトーク番組をスタートさせた。

 取材に訪れると、スタジオの環境はまさにプロ仕様であるが、全く固苦しくない雰囲気が作られており、出演者にリラックスを促すためか缶ビールを勧めていた。そして出演するファンと司会者との打ち合わせは特に無く、番組は生中継で始まった。

 一組目のゲスト、ウェストハムとトッテナムのファンと司会者だけで1時間近く時間が確保され、専門的で的確な意見も交えながら、番組が盛り上がっていくことに大きな衝撃を覚え、本当に出演者が素人かどうかさえ疑ってしまった。

 ファンたちは、サッカーコメンテーターよりも博識であり、愛するクラブのことを話しているようで自分自身が現在置かれている状況を世間に語りかけているようであった。また番組は、アマチュアリーグの研究者へのスカイプインタビューや女子サッカーに焦点を当てるなど、従来の番組とは異なることにも挑戦している。

 番組に出演したQPRレディースに所属するマリコ・エンゲルスさんは、番組に対する印象を次のように語った。

 「ユニークなファンがたくさん出演しているのが特徴です。どのファンもフットボールと地元のクラブに本当に詳しくて驚きます。今回出演していたスウォンジーファンの真面目そうな男性の話は、まるで自分で経営している会社を分析しているような口調でした」

 イギリス人のファンたちがもち合わせるフットボールに対する知識と情熱が、自ら作り出すネットメディアによって世界中に動画として発信する時代がやってきている。昔であれば、パブの仲間内だけで語れていた内容が、従来とは一味異なる手法で世に出てきているということだろう。

 スタジアムに足繁く通うファンの視点や成熟具合がどのようなものか、日本のサッカーファンの方々も一度覗いてみてはいかがだろうか。(ロンドン通信員=竹山友陽)

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