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【コラム】海外通信員

突然現れた障害物 アルゼンチン、W杯ロシア行きにも暗雲!?

[ 2016年11月4日 18:00 ]

アルゼンチン代表FWアグエロ

 11月1日の昼ごろ、驚くべきニュースが飛び込んできた。

 去る9月に行なわれたW杯南米地区予選第7節と第8節において、ボリビア代表に「出場の条件を満たさないパラグアイ国籍の選手がメンバー入りしていた」という事実が発覚、これを規約違反と判断したFIFAはこの2試合について、どちらも「3-0でボリビアの負け」とする処分を下したのだ。

 第7節はボリビアがペルーに2-0で勝ち、第8節ではチリのホームで0-0のドローに終わっていたことから、処分の結果ボリビアが勝点4を失ったと同時に、ペルーが勝点3、チリが勝点2をそれぞれ獲得。チリが6位からプレーオフ圏内の5位に浮上した一方、アルゼンチンが6位に転落することになってしまった。説明するまでもなく6位は「予選落ち」のポジションである。

 このためアルゼンチンでは、どのメディアも即「我々はW杯出場枠にない」というタイトルで緊急速報を流し、昼過ぎのサッカー専門番組ではキャスターたちが予期せぬ展開に困惑を隠せない様子を見せていた。そしてこれは、決して大袈裟な反応ではなかった。

 リオネル・メッシがキャプテンを務め、FIFAランキングでも1位に君臨するアルゼンチン代表。残る8試合で出場権を勝ち得るだけの実力があることは間違いないが、今、チーム内には弱気でネガティブな空気が蔓延している。3年連続して「決勝で敗れてタイトルを逃す」というトラウマは、第三者が想像する以上に選手たちに精神的なダメージを与えており、セルヒオ・アグエロも10月11日に行なわれたホームでのパラグアイ戦で0-1と敗れたあと、実際に「代表の試合に出るときは自分がものすごく下手な選手だという気分になってしまう」と率直な心境を語っている。

 来たる第11節のブラジル戦、第12節のコロンビア戦に向けて、綿密な戦術分析の他、いかにしてチームが士気を高めるかが重要な課題だと考えられていた矢先に「6位転落」が決まったというわけだ。まさに「泣きっ面に蜂」の状況なのである。

 ではここで、なぜボリビアサッカー連盟がFIFAの規約に反してしまい、どのようにして処分を受けることなったのか。その背景を簡単に説明しておきたい。

 ボリビア代表は、予選の対ペルー戦とチリ戦に際し、パラグアイ生まれのDFネルソン・カブレラをメンバーに入れた。ボリビアの法律では国内に3年間住めば国籍取得の資格が与えられることとなっており、その条件を満たして国籍を得ていたカブレラはボリビア人として予選に参加したのである。

 しかしFIFAの規約では「代表してプレーする国に少なくとも5年間在住していること」が条件となっている。国籍取得に関しては国によって様々なルールと条件があるが、カブレラにはFIFAが定める「5年間の在住歴」がなかったことを誰かが突き止め、ペルーとチリのサッカー協会に報告。ボリビア相手に敗戦を喫したペルーと、ホームで痛恨のドローを演じていたチリが揃ってFIFAに訴え、今回の処分に至ったというわけだ。

 ボリビアサッカー連盟はFIFAの処分に不服があるとして控訴の意向を示しているが、これによって順位が下がったアルゼンチンだけでなく、南米諸国のメディアとファンの間では「最終的には他の国にも影響を及ぼす」という意見が少なくない。W杯の南米地区予選は本大会よりも過酷な争いと言われており、過去アルゼンチンやブラジル、ウルグアイといった強豪が苦戦を強いられてきた例を見ただけでもその競争度の激しさは説明するまでもない。そのような熾烈な戦いにおいて、失ったはずの2ポイントを得て勝点16で5位に浮上したチリは、勝点17でダイレクト通過圏内にあるエクアドルやコロンビアにとって脅威となる。

 遠く険しい道のりに突然現れた障害物。アルゼンチンは果たして、これを乗り越えてロシア行きの切符を掴み取ることができるのだろうか。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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