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【コラム】海外通信員

小林祐希デビュー インテリジェンスと技術、適応能力の高さは特筆

[ 2016年9月16日 05:30 ]

ヘーレンフェインの入団会見でユニホームを手にする小林祐希。右はエイシンハGM
Photo By スポニチ

 9月10日土曜日、ヘーレンフェインの小林祐希が公式戦デビューを飾った。アベ・レンストラ・スタジアムで行われたホームゲーム、ヘーレンフェイン対FCトゥエンテで小林はスタメンに名を連ねた。

 小林のデビューがある、という予想は地元ではある程度あったようだ。例えば現地ローカルメディア、”オムロプ・フリシアン”が、試合前日の9日夕方の記事で”小林祐希がFCトゥエンテ戦でスタメンに”という動画記事を配信している。

 この記事の中で、ヘーレンフェインのストレッペル監督が小林について語っている。「彼は良くなっている。彼は質問好きでオープンな若者だ。時に彼の国(日本)からくる人々は従順だということを聞くけど、一緒に仕事をしていてとても良い若者だよ。練習にも適応してきている」

 「彼はインテリジェンスがありクリエイティブな若者だ。彼は8番及び10番のポジションでプレーできる。また攻撃的なサイドアタッカーとしてもプレー可能だ。多様性を持っているが、私が思うには彼は中盤がベストだ」

 監督が言う8番と10番のポジションというのは、10番は言うまでもなくトップ下の役割のこと。オランダでは4―3―3が一般的で中盤は3人。攻撃的MFが10番、守備的MFが6番。その間を繋ぐオールラウンダーが8番の役割と、大まかに言えばそういうことになる。ちなみに1番はGK、3番と4番がセンターバック、2番と5番が両サイドバック、7番と11番が両ウイング、センターフォワードが9番。ポジションと役割が背番号で表されており、それが共通認識になっているわけだ。

 迎えた試合当日、小林が入ったポジションは、8番のポジションだった。

 4―3―3で、中盤3人は、アンカーに背番号6番のスタイン・スハールス。中盤の底から長短のパスでゲームを作るキャプテンであり不動の存在だ。攻撃的MFのポジションには、今季すでに1得点している19番のペレ・ファン・アメルスフォールト。長身で後方からのロングフィード、さらにはサイドからクロスが入ってくる際にはターゲットマンにもなる、セカンドストライカー的な役割が期待されているタイプだ。つまり、小林はスハールスとファン・アメルスフォールトの間を埋める役割を任されたわけだ。そしてその役目を、小林はほぼ完璧に果たしてみせた。

 前半6分に小林はイエローカードを受けたが、これは相手がセットプレーのクリアからカウンターに行こうとしたところを、小林がプロフェッショナルファウル気味に強烈なタックルで止めたことで出されたもの。闘争心と強さをチームメイトにもサポーターにも見せつけたプレーでもあった。小林自身、試合後に「あれは戦う意思を見せるイエローカード。俺はプラスに捉えている」とコメントしていた。

 左ウイングのサム・ラルソン、左サイドバックのバイカーとの連携も十分で、左サイドでの細かいパス交換から突破を促し、チャンスメークに絡んでいた。センターバックからのビルドアップの際にも良く顔を出し、また逆に中盤から裏に抜けるダッシュを見せたりと精力的に動き回った。また、中盤の底のスハールスを攻守に良くサポート。スハールスが攻撃や守備で前に出たときなどは、その穴を適切に埋める。また左サイドバックにオーバーラップを促し、その後ろのスペースをケアすることも忘れない。

 小林の精力的なプレーも貢献し、前半のヘーレンフェインはほぼ完璧な試合運びを見せた。前半34分には、右サイドバックのクロスからFWラザが飛び込んでヘディングシュートを決めて1―0とリード。1点リードで前半を終えた。

 後半に入ると一転してトゥエンテが押し込む展開に。そして、後半17分に小林はMFナムリと交代し、ピッチを後にした。

 試合はその後、ヘーレンフェインが20分にラルソンの追加点で2―0に。後半33分にトゥエンテに1点返されたが、ロスタイムにラザがこの日2点目となるゴールを決めて3―1とし、ヘーレンフェインが勝利した。

 この日の小林を見ていて特に目を引いたのが、周りとコミュニケーションを取るだけでなく、指示を出しまくっていたことだ。とりわけ顕著だったのが、後半、センターバックが接触プレーの後に座り込み、一時ピッチ外に出た場面。その時、小林だけが座り込んでいるセンターバックのところに行って状況を確認していた。そしてセンターバックが戻るまでの間スハールスにセンターバックのポジションに入り、さらにMFファン・アメルスフォールトにポジションを下げて中に絞るようにと、小林が指示を出し、事実、指示に従ってメンバーも動いていた。

 「そういうのをなんで俺が一番にやるのか。そういうところにも若いチームだなと感じる」と試合後の小林。「スタイン(・スハールス)も、(センターバックに対して)お前、こういう状況で外に出るのかよっていう怒りが先に来ていて。(自分は)冷静に考えて、『スタイン、(バックラインに)戻れ』って。『ペレ(・ファン・アメルスフォールト)を(低いポジションに)戻して、絞らせるから』と。そんなのはサッカーでは当たり前のこと。一個下がって絞れと、それくらいジェスチャーでわかると思う。できることは全部やるっていうのは、どこに行っても変わらない」

 週の頭にはスタメンで出るというが分かっていたという。この日の守備のバランスを優先しながらプレーしていたという。

 「やる気満々で楽しもうと思っていた。守備重視のポジションの取り方だけど、自分の立ち位置とか存在を見せるために、言われたことをやらないと。自分のやりたいことばかり主張してもね。まず試合に絡んでいかないといけないというのがあった。前半は、チームとしてもほぼパーフェクト。俺としては攻撃で見せたいという部分もあるけど、俺に足りない守備のところで結構見せることができたから、手応えは掴めたかなと思う」

 試合開始から10分間、小林はオーバーペースかと思うほどに攻守に走り回っていた。

 「あれでいいんです。ボールに触っていなくても動いていれば。みんなが、アイツ動いているって見るから。次のステップを考えた時に、多分、みんなあれくらい走っていると思うんですよ。あのペースで90分間走れるようになるっていうのが俺の目標。やらないといけないこと。日本代表の試合も2試合見たけど、それができていない選手は出られない。それができる選手が結果を出していると感じたので。今日は60分のプレーだったけど、監督には90分プレーできたとは伝えた」

 一方で攻撃面では全てを出し切れたわけではない。「もっとボールに触って、ラストパスを出してシュートを打つのが俺の良さ。それはまだ出していない」という。

 「テンポは作りながら、チャンスにはなったけど、俺がフィニッシュ、俺がラストパスっていうのがしたいプレーだから。でも、まずは存在価値を見せるっていう意味では、勝利に貢献できた」

 攻撃面において小林個人に派手なプレーがなかったとはいえ、小林が明確な意図を持って周りの選手を活かしていたことも事実だ。

 「サム(・ラルソン)を活かせばこのチームは良くなるって、目に見えて分かるから。アイツがどれだけ気持ちよくプレーできるか。(自分が)無駄な走りもしてあげれば、彼はもっと活きる。彼が活きてくれて点を取ってくれれば、俺の評価も上がる。チームが良くなるイコールサムが良くなる。サムが良くなるイコール俺もよく見える。チームも勝てる。良いことしかない。上手いやつを活かすというのはどのチームも当たり前。でも活かす技量があるかどうか。俺にはある」

 実際のところ、ラルソンはこの試合でも1得点1アシストの大活躍だった。

 ストレッペル監督は試合後の中継局FOXスポーツのインタビューで「前半は、私が来て以来ベストなヘーレンフェインだった」と話していた。「本当に楽しんだ。前半に心残りがあるとすれば、2点目が取れなかったことくらいだ。ペースを握り、ポジショニングも良く、ボールを失った後に奪い返す守備も良かった」

 また、小林について、監督は地元紙「レーワルデン・コウラント」紙に「彼は素晴らしいプレーをしたし、とてもクレバーだった」とコメントしていた。「彼が全ての面で高いレベルにあることは見てわかったと思う。成熟した選手であり、とても早く適応する。有望だ」。また監督は、試合後のテレビのインタビューでも「小林の周りを動かしていくプレーが良かった」と語っていた。

 エールディビジデビューを飾った小林。得点やアシストといったわかりやすく派手なプレーはなかったものの、インテリジェンスと技術の高さを見せつけた。また、指示を出して周囲の選手を動かしていく様に表れているように、適応能力の高さは特筆すべきものだ。

 ヘーレンフェインは今季スタートから3試合は2分け1敗とつまずいた。だが、小林がセレクションに入って以降、2連勝。小林は「(俺が)ベンチに入って勝った。次は(俺が)スタメンに入って勝った。良い流れが来ている。このチームは絶対にトップ4に入れると思っている」。その目標は高い。だが、過去のヘーレンフェインというクラブの実績から考えれば、上手く行けば手が届くギリギリで絶妙な目標設定だ。決して非現実的な夢ではない。小林のチャレンジは面白くなりそうだ。(堀秀年=フェイエノールト通信員)

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