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【コラム】海外通信員

アトレチコ・マドリード CL3度目の悲劇

[ 2016年6月9日 05:30 ]

欧州CL決勝、PK戦の末に優勝を逃したアトレチコ・マドリードのフアンフラン・トーレス(AP)
Photo By AP

 アトレティコ・マドリードにとっては、3度目の悲劇である。ミラノのジュゼッペ・メアッツァを舞台とした5月28日のチャンピオンズリーグ決勝レアル・マドリード戦、ディエゴ・シメオネが率いるチームは、PK戦の末に優勝を逃した。

 試合終了間際に同点に追いつかれ、逆転負けを許した1974年のチャンピオンズカップ決勝バイエルン・ミュンヘン戦、2年前のCL決勝マドリー戦に続く悲劇。バイエルン戦で生まれた“プパス(悲運)”との呼称は、またもアトレティコに付いてまわった。

 悲劇の中心に位置したのは、フアンフラン・トーレスである。先行レアル、後攻アトレティコのPK戦。アトレティコの4人目のキッカーだったこの右サイドバックは、4―3の状況でペナルティーマークにボールを置いたが、シュートは左ポストを直撃。レアルの次のキッカー、クリスティアーノ・ロナウドが冷静にゴールを決め、勝敗は決している。

 僕はジュゼッペ・メアッツァの記者席でこの試合を見届けたが、決着ついた直後、モニターに映るアトレティコのファンはほぼ全員が涙していた。けれども、そこにはあたたかな交感も存在していた。その中心に位置していたのもまた、フアンフランだった。

 フアンフランは一人で2万人のアトレティコファンが陣取る南スタンドに近づくと、彼らにPK失敗を謝罪。するとファンは一斉に拍手を送り、それに返答したのだ。チームメートはその拍手によって何が起こっているかに気づき、次々に彼を抱きしめた。そこには、まさに感動の光景が広がっていたのだった。

 フアンフランは30日、クラブの公式ウェブサイトを通じて、ファンに感謝を伝えている。

 「僕が謝りに行ったとき、君たちが示してくれた愛情は絶対に忘れない。僕たちをいつだって信じてくれること、そしてアトレティコの人間であることは、本当に特別なのだと感じさせてくれることにも感謝をしたい」

 チームとファンが、繰り返された悲劇から受けた傷は深い。が、彼らは深い愛情を礎にして、可能な限り早く立ち上がるための姿勢をとっているように見える。フアンフランはその象徴とも言える存在となっており、彼の名前とその背番号20番がプリントされたユニホームは現在、通常の8倍程の売り上げを記録しているそうだ。

 決勝後、アトレティコで続投するか明かさぬまま母国アルゼンチンに戻ったシメオネが気がかりではあるが、彼らが“4度目の正直”を果たすことには大きな魅力がある。将来、フアンフランがチャンピオンズリーグ優勝に歓喜する姿が見られるとすれば、それは逆境を乗り越えていくという、大衆スポーツの最たる醍醐味の体現となるはずだ。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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