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【コラム】海外通信員

セリエA初昇格 育成重視クロトーネ「方針は変えない」

[ 2016年5月8日 05:30 ]

セリエA昇格を決めて、胴上げされるクロトーネのイバン・ユリッチ監督
Photo By AP

 4月29日、セリエBを戦っていたクロトーネがクラブ史上初のセリエA昇格を決めた。ホームは、イタリア南部カラブリア州にある人口62430人の小さな港町。同州からの参戦は、かつて中村俊輔が所属したレッジーナ以来久々となる。しかしこれは、単に小さなクラブが頑張って奇跡を起こした、という話ではない。実を言えばクロトーネは、現在のイタリアサッカー界において非常に重要な役割を果たしたクラブなのだ。

 イタリア代表の巨漢ストライカー、FWグラッツィアーノ・ペッレ(サウザンプトン)。代表でも主力に定着したMFアレッサンドロ・フロレンツィ(ローマ)、今シーズン大ブレイクを果たした若手テクニシャンのFWフェデリコ・ベルナルデスキ(フィオレンティーナ)。イタリア代表として欧州選手権への参戦が有力視されているこれらの選手たちは、それぞれ年代は違えど実はクロトーネでのプレー経験がある。それだけではない。かつてミランで活躍したMFアントニオ・ノチェリーノ、イタリア代表にも登り詰めたGKアントニオ・ミランテにDFダニエレ・ガスタルデッロらのベテラン、さらにはアンジェロ・オグボンナらもそうだ。ラツィオの次期主将とも言われている若手MFダニーロ・カタルディも、ミランやインテル相手にゴールを決め、サッスオーロで活躍のFWニコラ・サンソーネもしかり。つまり過去リーグで活躍した、あるいは現在リーグで目立っている若手イタリア人には、下積みの時代に一度クロトーネに所属していた選手がかなりの数で存在する。

 からくりはこうだ。かつてペッレはレッチェの下部組織の出身、フロレンツィはローマの、ベルナルデスキはフィオレンティーナの生え抜きだった。それぞれ将来有望な若手としてクラブは大切に育てていたが、トップチームのレギュラーをいきなり奪うには若すぎた。そうかといってベンチに腐らせておくわけにもいかないので、レンタル先を探すことになった。その時に、彼らを受け入れたのがクロトーネだったのである。もちろん彼らはクラブの財産としてずっと手元に置いておけるわけではなく、期限が切れたら返却しなければならないのだが、また放出したら新しいレンタル選手を探す。クラブは攻撃的サッカーを信条とする優秀なコーチを招聘し、クラブを強くしながら選手の育成にも使ってもらうという経営モデルを確立していたのだ。ちなみにジェノアをセリエAの中堅以上へ押し上げ、今も同クラブで指揮をとるジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督も、クロトーネで3シーズン仕事をしていた。

 そのようにしてクラブを切り盛りしていたのは、1995年から在籍するジュセッペ・ウルシーノ強化部長だ。若手主体のチーム編成に絞り、スカウティングの目を光らせるという仕事を21年間にわたって続けてきた成果がここにある。今シーズンも実は、とりたてて特別な補強をしたわけではなかった。だが、かつて選手としてもコーチとしても、ガスペリーニの懐刀として働いたイバン・ユリッチ監督のもとチームが思わぬ安定感を発揮し、シーズン前半戦で首位に立つとそのまま大崩れせずに昇格へと突っ走った。

 「来シーズンもその方針は変えない。我われはそういうクラブであり、もしこれを変えたら我われ自身も崩壊してしまう」とウルシーノ強化部長は語り、「若手の選手たちにとって、クロトーネで1年で腕を磨くことはその後のキャリアに役立つことだろう」とさらなる求人を”アピール”していた。低予算で育成重視。彼らはそのスタンスを変えず、来シーズンにセリエAへ挑むことになる。(神尾光臣=イタリア通信員)

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