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【コラム】海外通信員

4000人収容の英国の小さなスタジアムが示す大きな可能性

[ 2016年4月13日 05:30 ]

ダートフォードFCのスタジアム
Photo By 提供写真

 ガンバ大阪が自前のサッカー専用スタジアムを完成させ、日本サッカー界も専用スタジアムの誕生を望む声が全国各地から聞こえている。サッカーの母国イギリスには、フットボール専用の国立競技場ウェンブリースタジアムをはじめ、世界的に有名なサッカー専用スタジアムが数多くある。また、地方の小さなクラブも、自前の独創的なスタジアムを所有していることが、イングランドのフットボール文化の懐の深さでもある。

 ロンドンのセミプロクラブでGKとしてプレー経験がある玉井亮平氏は、日本に帰国後は広島県の廿日市FCに在籍し、選手としてプレーしながらクラブ運営にも携わっている。オフ期間を利用してロンドン郊外の小さなスタジアムを視察した。

 「イギリスから日本に戻ってきて一番痛感していることは、地方クラブが街に根付いていくなかで自前のグラウンドもしくはスタジアムを持つということの重要性です。日本の街クラブの現状では、自前のグラウンドを持つということは非常に難しいことで、Jクラブを見てもスタジアムを所有しているのは数クラブのみ。トップレベルだけではなく、地方のサッカー文化においても、歴史が積み重なった文化の差は大きいなと感じます」

 今回、玉井氏が訪れたロンドン郊外に位置するダートフォードFCのスタジアムの収容人数は、わずか4,000人。ここ数年、サステイナビリティーという観点から、国内外で注目されている。サステイナビリティーとは、持続可能性という意味で、環境、経済、社会等の観点からその物事を持続可能にしていく取り組みのことを指し、ロンドン五輪の開催時にもメディアに大きく取り上げられたテーマのひとつだった。ワールドカップやオリンピックのために大きなスタジアムを建設するが、大会終了後にはその大きすぎる収容人数や交通アクセスの不便さ等で使用頻度が減り、施設自体を維持するコストが膨大に膨らみ、負の遺産と化していくケースは北京五輪、シドニー五輪会場でもみられた。

 見栄をはるのではなく身の丈にあった規模のものを建設したダートフォードFCのスタジアムは、環境面も本気で挑んでいる。たとえば、スタジアムを覆う屋根に降る雨水は施設内のトイレやピッチの水まきに再利用、ソーラーパネルを設置しロッカールームの暖房やピッチ下に埋め込まれたヒーターやナイター照明の電力に充てられている。現在は、屋根の工事をしており、スタジアム屋根全体に草木を育てる計画を実行中。屋根に生い茂る草木は防音と断熱の役割を果たし、自然豊かな周囲の景観を損なわないように配慮されている。また、客席と比べると異様に背の高い外壁は、ナイター使用時の公害対策、そしてロンドンの冬の冷たい風からも観客を守っている。

 同スタジアムを訪れた玉井氏は、「日本サッカー発展のためには全国の地方にこのような小規模でも立派なスタジアムができるはどうしたらよいかと学びに来た」と、クラブに伝えると、具体的な金額や自治体からのサポートを含めてクラブ会長から丁寧な説明をしてもらった。
「日本で言えば、地域リーグや都道府県リーグ所属クラブが、このようなスタジアムを所有し運営していることになります。日本のサッカー界でも文化の裾野を広げる意味で欠かすことができないのは、小さなスタジアム運営です。スタジアムの建設費は約7百万ポンド、日本円でおよそ13億円。自然保護や環境に関わる様々な団体からの支援もあったそうですが、やはり地方自治体からの出資も少なくはなかったようです。スタジアムができるにあたってその周辺や街全体の風景を変わるので、自治体の支援は不可欠だったようです」

 日本国内でも、サッカーを見ること、プレーすること、地元のクラブを応援することなど、スポーツへの接し方の多様性がでてくる。Jリーグに所属するサッカークラブだけでなく、地域リーグに所属するクラブの小さなスタジアムの魅力がより浸透していくことが、サッカー文化の発展に繋がるのではないだろうか。(竹山友陽=ロンドン通信員)

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