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【コラム】海外通信員

世界最古のサッカークラブでデータ分析官としてインターンする日本人

[ 2015年1月26日 05:30 ]

ノッツカウンティ(世界最古のクラブで3部に所属している)の育成年代の分析家としてインターンをおこなっている小野啓希さん
Photo By 提供写真

 現代サッカーにおいて「サッカーと分析」は、すでに切っても切れない関係になりつつある。昨年のW杯ブラジル大会においてもドイツ代表が長期プロジェクトとしてデータ分析を活用して、優勝を手に入れたことは多くのメディアにも取り上げられた。試合中の選手のダッシュ本数、スピード、走行距離はもちろんのこと、ボールを保持する秒数、パスの成功率、パスの方向、プレーゾーンなどの膨大なデータがコンピューターに一瞬のうちに落とし込まれていく。

 サッカーは、一つずつのプレーが途切れにくい連続的なスポーツであり、数字だけを頼りにできないという読者層もいるだろう。実際に10年ほど前のプレミアリーグの監督陣でさえも、あまりデータと真剣に向き合っていなかったようだ。

 しかしながら、ここ数年間で状況は一変しており、データ分析化への波は加速している。プレミアリーグの次世代を担う監督として評判高いエヴァートンのロベルト・マルティネス監督は、データ分析を効果的に使いながら結果を残してきた。サッカーとデータの関係性について問われたインタビューで、彼は次のように語っている。

 「わたしたちは、選手個人の戦術的、技術的、フィジカル的側面のプロフィールを作成するとき、まずは数字という事実をもとにパフォーマンスの善し悪しを判断するようにしている。その事実をもとにすれば、コーチ陣から選手へ改善すべき点を伝えるときに、より有効なものになるからね。また選手獲得をするときは、ある特定の選手に恋をして獲得に動きはじめるときもあるので、もちろん主観的な要素が含まれていると思う。だが主観的要素だけではなく、チームのやりたいスタイルや求めているポジションに本当に選手がフィットするのかという客観的な要素を検証していき、最終的な提案にもっていく。プレミアリーグにおいては、特にフィジカル的要素が求められている」

 ヨーロッパのトップチームの現場では、データ・システム会社と提携することは、数年前から常識になっているが、情報収集の仕方が、より細かくなってきている。日本代表DF吉田麻也が所属するサウサンプトンでは、練習中の選手たちの心拍数を記録し、すべてのプレーが録画され、プレー内容をデータ化している。

 またイングランド国内のユース年代の試合や練習においても、データ分析は積極的に取り入れられている。サウサンプトン・ソレント大学のサッカー学コースを卒業した小野啓希は、現在ノッツカウンティ(世界最古のクラブで3部に所属している)の育成年代の分析家としてインターンをおこなっている。

 「分析官たちが、具体的に何をしているかというと、土曜日のゲームで撮影したビデオをもとにデータ化をおこない、日曜日にその数字をもとに分析レポートを作成します。そして、月曜日のミーティングに参加してプレゼン資料を見せながら、コーチ陣と意見を交わします。例えば先週は、相手DFの裏にでるパスを監督が増やしたいという狙いは以前の話で知っていたので、その本数と傾向を調べて、どうしたらより増えるかという向上するためのトレーニングを考えました」

 ノッツカウンティは歴史に名高いフットボールクラブではあるが、プレミアリーグと比べると資金面において大きな開きがある。また、ドイツやスペインを追いつくために、イングランドサッカー協会を中心に試行錯誤がなされているが、3部の地方クラブレベルでは資金面だけでなく育成環境にも課題があるようだ。

 「知り合いの方を通じて、幸運にもプロクラブにインターンという形で入れたのですが、残念ながらユース年代の分析に外国人を雇うまでの資金的な余裕はまだないようです。最近、育成部門のトップが再編成されたのですが、それまでのイングランドの中では珍しいパスを繋いで攻めるスタイルからオールドスタイルのロングボール中心の試合内容に変わりました。U-18のFA杯の試合での選手起用においても、分析家としてキープレイヤーだと思っていた選手が、体の線が細いという理由で外れてしまいました。ミーティング資料でデータをもとに、自分の意見をまとめて書くページがあるのですが、ロングボール主体で結果をだし、長年かけて積み上げてきたサッカー観に踏み入ることは簡単なことではありません。オールドスタイルを好む監督は、データよりも直感的なものを大切にするのかもしれません」

 小野はインターン終了後も、まずは分析家としての腕を磨き、いずれはコーチ、監督として活躍できるようヨーロッパで挑戦を続けていくようだ。

 ピッチ上でデータ分析を活かすことができるかは、分析ソフトの購入だけに大金を積んでも仕方がない。試合後の膨大な数字のどの部分を切り取って分析し、監督らとのコミュニケーションを経て、適切なトレーニング内容へと落としこめるか、そして週末のゲームで結果を残せるかが分析チームのキーになるだろう。そのような優秀なアナリスト(分析官)の人材を確保する重要性は、選手一人を獲得することと同じ意味を持つ。そんな時代は、もうそこまでやってきている。(竹山友陽=ロンドン通信員)

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