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【コラム】海外通信員

イレギュラーなリーガのキックオフ時間、その背景には…

[ 2012年4月21日 06:00 ]

1節で5試合が生放送されることもあるリーガエスパニョーラの裏側には…
Photo By AP

 欧州主要リーグの中でも、試合日程と開始時間が特にイレギュラーなものとして知られるのが、リーガエスパニョーラだ。2週間ほど前にならなければ日程が発表されず、奔放とも言える試合開始時間はクラブ、ファンの不満を噴出させている。今回は、リーガの試合開始時間が決められる背景を紹介したいと思う。

 まず、今季のリーガにおける現在の試合枠を説明する。すべて現地時間で表記するが、土曜日が18時、20時、22時の3枠があり、そのうち22時の試合は地上波での放送が許可されている。また日曜日がアジア市場の強化を目指して設置された正午開始枠が昨季終盤から採用。その後に16時、18時、21時半に試合を行う。最後に、以前に不評で取り止めとなった月曜日21時開始の1試合が、プレミアリーグにならって昨季から復活した。特に遅い時間帯である土曜日22時、日曜日21時半は家庭やバル(スペインの居酒屋兼喫茶店)でのテレビ観戦を意識したもので、レアル・マドリードとバルセロナの2強や、ダービーなどの注目試合が割り振られることが多い。

 プレミアリーグやセリエAであれば、1日の試合枠が2~3枠だけに限られ、1枠で6戦ほどの試合が行われる場合もある。だが上記のように、リーガは土曜日が3枠で日曜日が4枠、さらに月曜日にも1枠が設けられるなど細分化されており、最大の試合開催数は多くて3~4試合だ。では、この試合日程と対戦時間の割り振りを決めているのは、どの機関なのであろうか。

 スペインプロリーグ機構(LFP)は7月に行われるスペインサッカー連盟(RFEF)の総会で、レアル・マドリードとアトレティコ・マドリードの首都2大クラブが、同じ節にホームでプレーしないなど、クラブや各自治州の要望を受けてある程度のコンディションを決める。だが試合日程と対戦時間の割り振りの決定権は、2014~15シーズンまでLFPと契約を交わしたメディアプロが保持している。リーガの収入格差が生まれている根底的な理由とされるクラブの放送権収入に関して、リーガ1部20クラブ、2部22クラブと個別に契約を交わしているのも、もちろんこの会社であり、今季であれば5億5000万ユーロ(約5億8500万円)をLFPと各クラブに支払っている。

 メディアプロのトップに立つハウメ・ローレス氏はその強気な性格も災いし、リーガの特異な試合開始時間について、多くの論争を巻き起こしてきた。試合日程が2週間前まで判明しないことについては、「なぜ現在になって、国家規模の緊急事態のように扱われるんだ? 我々もプレミアリーグのように日程を先に伝えることはできるが、あそこは日程をちょくちょく変更する必要に迫られている」と語り、土曜日の正午開始試合と月曜日の試合については、「我々がサッカーに悪影響を与えているように話されているが、ほかもっと深刻なことがあるはずだ。それにアトレティコの正午の試合には、十分すぎるほどの人数が集まった」と、強気な姿勢を貫いている。

 ローレス氏の言う通り、アトレティコの本拠地ビセンテ・カルデロン(収容人数5万5000人)の正午開始試合の客入りは、平均5万人を超えるなど悪くはない。だがアトレティコはホーム&アウェー合わせてすでに8試合で正午のプレーを強いられ、さらにその中の5試合をヨーロッパリーグの直後、中1日半で戦っている。ディエゴ・シメオネ監督は「試合時間を決める人間に、正午の試合でプレーしてもらいたい。木曜日夜にアウェーでプレーし、朝方5時にマドリードに戻り、日曜日の朝に再びピッチに立つ。選手たちが味わう感覚を知ってもらいたいよ。これは言い訳ではなく、事実なんだ」と、チームのルーチンが破壊されていることに不満を漏らしている。また、アトレティコと関係が深いスペインのスポーツ紙アスは、クラブ幹部の「ローレスはアトレティコを不快にさせたいんだ。我々はメディアプロとの関係が薄く、それが日曜日の正午開始試合の多さにつながっている」との声を紹介している。

 またクラブの放送権収入格差と同様に、メディアプロはレアル・マドリードとバルセロナを日程的に優遇するケースがある。ローレス氏は「レアル・マドリードとバルセロナがいなければ、リーガは散々なものとなる。彼らがいるからこそ、我々のリーグは素晴らしい」と断言しており、試合の日程にも2強への恩恵が時に表れる。最近の例としては、リーガ第31節での出来事が挙げられる。

 第31節にはバルセロナ対アスレチック・ビルバオ(2-0)のカードが組まれていたが、ビルバオはその試合の前の木曜日にヨーロッパリーグのシャルケ戦に臨み、バルセロナは翌週の火曜日にチャンピオンズリーグのミラン戦を控えていた。この試合は両チームが戦う前後の試合の間に、48時間の猶予を設けられる日曜日の正午開始が適当と思われた。しかしメディアプロが下した決断は、ビルバオに中1日での試合を強いる土曜日の22時枠での開催だった。ビルバオが強い反発を見せたメディアプロのこの決断は、バルセロナの要望に沿ったものとされる。サンドロ・ロセイ会長は「12時の試合を好むことはない。(バルセロナの本拠地)カンプ・ノウの伝統は、夕方と夜のプレーにある」と、日曜日正午のプレーに反対しており、実際にバルセロナはまだ一度も正午の試合を戦っていない。

 メディアプロとクラブの衝突は尽きないが、何よりも問題となるのはファンに与える被害だろう。ファンがスタジアムに足を運ぶのをためらう時間帯は、スペインの新聞で最大の発行部数を誇るスポーツ紙マルカが、アンケートで明らかにしている。3万人が投票した結果、最も嫌われたのは月曜日21時の78.8%で、日曜日21時半(66.2%)、日曜日の正午開始試合(55.2%)と続いた。一方で好ましい時間帯としては、土曜日20時(87.6%)、日曜日の18時(78.9%)、土曜日の20時(75.9%)と、夕方から夜にかけての試合を挙げている。このアンケートの通り、次の日に仕事や学校がある中で行われる日曜日21時半、平日の月曜日21時開始試合はスタジアムへの客足が減少している。月曜日開催であったリーガ第29節のエスパニョール対ラシン(3-1)の動員人数は、エスパニョールの本拠地コルネジャ=・エル・プラットの収容人数4万500人の半分ほどだった。

 そして、20時からクラシコが開催される21日の試合日程でも、メディアプロは物議を醸す決定を下している。クラシコ直後に行われるセビージャ対レバンテを、通常であれば22時であるところ、地上波がクラシコのハイライトや試合後会見の映像を流す余地をつくるために、22時半の開始としたのだ。セビージャの本拠地サンチェス・ピスファンからファンが去る頃には、すでに日付が変わっていることになる異例の開始時間。子供にとっては観戦が難しく、帰宅方法に支障が出ることも予想される。なお、メディアプロはリーガのクラシコを有料放送局と地上波に各シーズン1試合割り当てる契約を結んでおり、前期のクラシコが地上波の放送管轄である22時開始だった。セビージャ対レバンテは、メディアプロの都合を被った試合とも言えるだろう。

 かなり横暴に試合日程、開始時間を決定するメディアプロだが、ファンだけでなく、メディアからも批判の的となっている。ローレス氏は言う。「今季の我々は様々な試みを行い、そのデータを分析している。これは、スペインサッカーのプロモーションの一環なんだ」。その試みがスペインサッカーのネガティブの側面を強調しているのは紛れもないが、来季以降に改善はされるのか…。いずれにしても、テレビ越しでも空席が目立つスタジアムは見たくはないものである。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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