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【コラム】海外通信員

プレミア日本人対決は見られずも吉田に感じた待つ覚悟

[ 2018年11月9日 12:00 ]

リーグ戦11節までで、唯一出場(フル出場)した第8節チェルシー戦(10月2日)でのサウサンプトン吉田麻也
Photo By スポニチ

 プレミアリーグ第10節が10月27日に行われ、日本代表DF吉田麻也が所属するサウサンプトンはFW武藤嘉紀を擁するニューカッスルをホームに迎えた。

 3試合連続スタメンの武藤は80分までプレー。要所で見せ場を何度か作り、強引にシュートに持ち込む場面もあったが得点という結果を残すことはできなかった。一方でベンチスタートとなった吉田に出場機会は巡らず日本人対決とはならなかった。吉田の今シーズンは、ロシアW杯の開幕から苦しい時間を過ごしている。

 試合は非常に単調なテンポで進んでいき、ゴール前での攻防も数が限られていた。プレミアらしからぬゲーム展開で上下運動が少なくスタンドはいつも以上に肌寒く感じられた。

 試合が面白みに欠ける理由は明確であった。お互いに攻撃のパターンが定まっておらず迷いが生じていた。選手同士の意思疎通がないために単純なパスミスが発生、さらにそのミスからのカウンターを防ぐためにファールで止めるというシーンが目立っていた。得点力不足に悩む両チーム同士の対決だけあって、相手の出方を伺うリアクションサッカーがなされていた。

 11月初旬の現在の順位はサウサンプトンが1勝4分け6敗で16位、一方のニューカッスルは1勝3分け7敗の17位で、このままでは降格争いに巻き込まれる可能性が非常に高い。また、チームが向上していきそうな期待感が見られないため、両チーム共に監督交代の可能性がニュースで流れはじめている。

 そんな中、なぜ吉田はレギュラー争いに絡むことができないのか?一方でなぜ武藤はこのゲームに出場することができているのか?

 選手の入れ替わりが毎シーズン激しいプレミアリーグ特有の考え方もしれないが、吉田が現在チーム内のポジション争いで3番手もしくは4番手という状況に追い込まれているのはパフォーマンス以上に新加入選手たちに支払われた違約金の額が大きく関わっていると思われる。

 今シーズンはじめの段階ではまだCBペアは固定されてはいなかったが、開幕してしばらくは主にフートとデンマーク代表の新加入選手ヴェステルゴーアが務めるようになった。昨シーズンまではジャック・ステファン、吉田が監督の信頼を勝ち取りレギュラーで出場していたが、今シーズンは両選手ともにベンチを温める時間が続いていた。

 ドイツ誌『Kicker』によると、新加入ヴェステルゴーアの移籍金は2000万ユーロ(約26億1000万円)。昨シーズン、フートの移籍金は1500万ユーロ(約19億円)。この金額は決してな小さな数字ではない。首脳陣やチーム強化スタッフがこの金額を払ったからには一定のプレー時間を与えてチームになじませるという期間がチーム内に必ず生まれてくる。しかしながら、開幕10試合が経っても一向に安定しない内容にチーム守備の変革に手をつけようとしているのはたしかだ。ヴェステルゴーアに代わってステファンに出番が与えられているのを見ると、吉田にもまだまだチャンスが巡ってくる可能性はあると考えて良い。

 一方でイギリスやドイツの地元紙の報道によると武藤には1000万ポンド(13億8670万円)と移籍金が投入された。ニューキャッスルの昨年の攻撃陣の出来は悪くなかったが、昨シーズン安定して出場していた選手がいたとしても、ある程度の違約金を払って連れてきた選手がいれば、必ず試されるチャンスはやってくる。さらにマンチェスターユナイテッド戦での振り向きざまのゴールで大きな信頼を得てこの試合にもフォワードとして出場していた。

 日本国内にはなかなか馴染みのない感覚ではあるが、大金で移籍してきた選手をベンチに置いておくべきではないという理由で、今までレギュラーだった選手を控えに回すのは日常茶飯事である

 数シーズン前の吉田であると、レギュラーから外されることで苛立ちや焦りが感じられ、試合勘の欠如がミスに繋がるシーンも見られたが、W杯、カップ戦決勝などの数々の大舞台や、さらには代表キャプテンを経験しプレミアリーグで生き残る術を心得ている。これは肉体的にも精神的にも成長していることが伺える。

 チャンスというのはいつ巡ってくるかわからない中で吉田に今できることは限られている。試合後、ロンドンから自身がアンバサダーを務めるフットボールサムライの選手や家族、日系企業のための席を150席用意し子供達やファンへの対応などをしたのだが、試合後と面会の間に彼はフィジカルトレーナーに駆け合い、居残って走ることを申し出た。

 誰も残らないピッチでただ一人走り続ける吉田。その姿からはチャンスに向けて準備を待つという覚悟が感じられた。(ロンドン通信員=竹山友陽)

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