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【コラム】海外通信員

レアルの危機 ソラーリ暫定監督「二つのコホネスでプレー」

[ 2018年11月2日 15:40 ]

国王杯メリージャ戦で指揮を執ったレアル・マドリードのソラーリ暫定監督
Photo By AP

 ロシア・ワールドカップ開催中の6月14日、レアル・マドリードの本拠地サンティアゴ・ベルナベウでは、新監督の就任発表が行われていた。チャンピオンズリーグ三連覇を果たしたジネディーヌ・ジダンの後任としてチームを率いることになったのは、ワールドカップでスペイン代表を指揮を執っていたはずのジュレン・ロペテギ。レアルがワールドカップ開幕直前に招へいを発表したために、同大会開幕2日前にスペイン代表監督を解任されていた男だ。

 レアルはスペイン代表を追放されたロペテギの入団発表をすぐさま行うことで、ネガティブなムードを払拭しようと試みた。ロペテギはその場で、選手時代にも在籍したクラブに監督として戻ってきたことへの喜びを涙ながらに語り、彼とレアルの関係者で埋め尽くされた会見場は何度も拍手を送っていた。

 だが、その強引にも見えた祝福のイベントから4カ月ちょっと、レアルは成績不振によってロペテギを解任。その解任の声明では「クラブの理事会は次のバロンドール候補を8選手擁するというクラブ史において前例のない陣容と、ここまで手にした結果の間に大きな不均衡があると理解しています」と、ロペテギが豪華な陣容を扱う術を知らなかった指揮官であることをほのめかした。あの入団発表と比べて、その態度は180度変わっていた。

 解任の引き金を引いたのは、クラシコの1−5大敗だった。しかし『マルカ』がその試合翌日の1面で「責任はジュレンだけでない」との見出しを打った通り、非難すべきはロペテギだけではないだろう。ロペテギは入団発表で、当時はまだユヴェントス移籍が噂レベルだったクリスティアーノ・ロナウドについて「C・ロナウドは常にそばにいてほしい。ここに世界最高の選手がいることに疑いはない」と語っていたが、クラブは彼の後釜となる選手(年間50ゴールを決めてきた彼の穴を埋められる選手などそういないが)の獲得に尽力することはなかったし、CL三連覇で満腹の選手たちが(特に守備面で)集中を欠いてる姿も散見された。レアルのロペテギ解任声明は、すべての責任を彼に押し付ける、ひどく乱暴なものであったことは間違いない。

 ロペテギの後任は、レアル・マドリード・カスティージャ(Bチーム)を率いていたサンティアゴ・ソラーリが暫定的に務める。この人事はまるで、ラファ・ベニテスが解任となり、ジダンがBチームから昇格を果たした3年前の再現である。もっと言えば、あの2000年代前半のガラクティコス(銀河系軍団)の一員だったソラーリは、負傷したジダンに代わって出場した一戦が同チーム最後の試合だった。だがジダンがガラクティコ(銀河系選手)であったのに対して、ソラーリはその軍団の一員であるだけで、その待遇は違った。今回だって、それは同じ。ジダンが昇格した際には派手やかな就任発表が行われたのに対して、ソラーリがトップチーム監督として初めて公の場に現れたのは国王杯ベスト32、メリージャとのファーストレグの前日会見だった。

 暫定という形でトップチームを任せられたソラーリだが、しかしメリージャ戦前日会見で発した言葉は、暫定監督のものとも思えなかった。

 「この試合の目的は、二つのコホネスでプレーすることだ。大切なのは日一日であり、私たちコーチ陣は期待を植えつけたいと思う」

 コホネスは睾丸の意味で日本語同様に根性などを表す。レアル首脳陣は外部から後任監督を招へいする可能性を考慮し続けているが、ソラーリ本人は自らチームを立て直す気概を見せたのだった。

 そのモロッコの地中海沿岸にあるスペインの飛び地メリージャを舞台にした一戦で、レアルは同じ名前のチームを相手に4−0の快勝。ソラーリのやり繰りはやはり暫定監督のものではなく、チームを自分色に染めようとしていた。システムは4−3−3から4−2−3−1となり、攻撃はパス回し主体のものからより縦に速く、直接的にゴールを狙うものとなった。ロペテギ時代にほとんど使われなかったブラジルの新たな至宝とされるヴィニシウスも先発出場を果たして、しっかりと躍動している。

 もっとも今回の相手メリージャは、カテゴリーが二つ下のチームであり、ソラーリ率いるチームはここからテストの本番を迎える。リーガでは勝ち点14で9位に位置し、勝ち点21で首位に立つバルセロナよりも勝ち点6差の降格圏の方に近く、まさに危機に瀕しているレアルだが、ソラーリとともに状況を逆転させるのか、それともど壺にはまっていくのだろうか……。クラブが体面のために誰かに責任をなすりつけ、ファンが「最強」の称号を得たチームの立役者、ジダンとC・ロナウドに思いを馳せる現状は、あまりにも寂しい。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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