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【コラム】海外通信員

アトレティコ・シメオネ体制 今季の“航海”は

[ 2018年9月21日 14:50 ]

4試合のベンチ入り禁止のため、欧州チャンピオンズリーグ・モナコ戦でスタンドから見守るアトレチコ・マドリードのシメオネ監督
Photo By AP

 「おそらく史上最強のメンバーだろう」「クラブの115年の歴史を全部知っているわけではない。が、ここ30年では最も優れた陣容だ」。アトレティコ・マドリードは18−19シーズン、そうした前評判でもって航海をスタートさせた。

 ディエゴ・シメオネが指揮を執るようになってから6年半、アトレティコはチャンピオンズリーグ出場を最低の目標としながら、リーガ、コパ・デル・レイ、UEFAスーパーカップ、スペイン・スーパーカップ優勝、2回にわたるチャンピオンズリーグ決勝進出といった偉業を達成しながら成長を遂げてきた。シメオネの監督就任時には1億2000万ユーロだった予算額は、今季には4億ユーロに迫り、欧州を代表するビッグクラブも射程に捉えている。

 だからこそ、冒頭で記したような言葉でスペインメディアの間で口にされるのは、当然なのかもしれない。彼らはバルセロナからオファーを受けた世界最高の選手の一人に数えられるアントワーヌ・グリーズマンを残留させたほか、セルヒオ・ブスケッツの後継と目されるロドリゴや、フランスの将来を担うと期待されるトマ・レマルらを獲得。ゴディン、ジエゴ・コスタ、コケ、サウール・ニゲスらワールドクラスの選手たちも健在で、陣容だけを見ればまさにビッグクラブ然としている。

 しかし蓋を開けてみれば、アトレティコはいきなり荒波に揉まれることとなった。UEFAスーパーカップでこそレアル・マドリードを下して優勝したものの、リーガでは第4節までを1勝2分け1敗で終えるという苦戦ぶり。これまでのシメオネ政権では第4節終了時点で最低でも勝ち点8を獲得していたが、まるで乱調をお得意としていた彼が率いる前のチームに立ち返ったようである。

 アトレティコの苦闘の大部分は、新戦力の適応不足を原因としている。ロドリゴやレマルはチームの中心に据えられるべき選手だが、チームメートとの連動がまだうまくいっていない。現状では新たな戦力を加えたプラス要素よりも、昨季限りでクラブを離れた前主将ガビ不在のマイナス要素の方が大きく、徐々にマイナスからプラスへと持っていく必要がある。

 シメオネは「私は新加入の選手たちをどう適応させるかだけを考えている。状況を改善をするための唯一の方法は、働くことにほかならない」と語るが、史上最高ともされるアトレティコの真価は、新戦力と既存戦力の融合がなされたときに明らかになるはず。そして、その点で頼もしいのは、このアルゼンチン人指揮官の足が今もしっかりと地についていることだろう。

 本拠地ワンダ・メトロポリターノでの今季初戦、ラージョ・バジェカーノ戦後にはUEFAスーパーカップの優勝セレモニーが行われたが、シメオネはサポーターに向けてこう話しかけたのだった。

 「ほかの人間が言っていることなど鵜呑みにしない。アトレティコは謙虚さなしでは進んでいけないからだ。努力、団結、気概こそが、私たちの歩むべき道にほかならない」

 シメオネ以前のチームは、振る舞いにもプレースタイルにも自分たちがスペインのエリート集団という慢心があったように感じられた。が、シメオネは監督としてアトレティコに就任した直後から、自分たちが2強に劣っていること、成長する必要性があることを説いていた。それから6年半が経ち、史上最高の陣容を手にしたと言われても、彼の考え方は何ら変わっていない。

 今季のチャンピオンズ決勝はメトロポリターノで開催され、アトレティコがホームで悲願の初優勝を飾ることができるかに注目されているが、シメオネは「一試合ずつ進んでいけば、運命が導くべき場所へと導いてくれるはず。決勝にたどり着くためには、勝たなければいけない」と、目前の試合だけに集中しなければいけないことを強調。やはり、浮き足立つことはないのだ。

 外部の声を気に留めることなく、シメオネのアトレティコは航海を続けていく。最後に、どこにたどり着くのかは分からない。一つ言えるのは、シメオネのチームがこれまでに、座礁したままシーズンを終えたことなど一回もないということだ。だからこそリーガでは極めて珍しい長期政権が築かれ、サポーターは「オレ!オレ!オレ!チョロ・シメオネ!」と叫び続けるのである。

 シメオネの標語である「信じることを決してやめるな」は、メトロポリターノに併設されるオフィシャルショップなど、あらゆるところに掲げられているが、彼らはその言葉の先に報いを見ようとしている。もちろん、ただ闇雲に信じるだけでなく、謙虚に、したたかに、アトレティコらしく進みながら、である。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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