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【コラム】海外通信員

怪童エムバペ、ネイマール、ブッフォン… 豪華トゥヘルPSGはどこまで行ける?

[ 2018年8月24日 14:40 ]

開幕から2試合連続で出場しているパリSGのGKブッフォン
Photo By スポニチ

 フランスが開幕から大波乱に見舞われている。

 昨季2位でチャンピオンズリーグ(CL)に出場するモナコが、昨季降格の危機にあったリールと引き分けたかと思えば、昨季3位でやはりCLに出場するリヨン(OL)が、2部から昇格してきたばかりのランス(SR)に敗北。さらに昨季4位で来季のCL出場をめざすマルセイユ(OM)までが、25年ぶりの1部昇格を果たしたニームに木っ端微塵にされてしまったのだ。

 昇格組2クラブが揃って開幕2連勝を飾ったのは、なんと1962年以来。つまり56年ぶりだ。当時はまさにランスとニームがトップリーグで黄金期を築いていた時代である。

 こうして大御所が軒並みつまずくなか、唯一首位を保っているのが、パリSG(PSG)。開幕戦からカンを3−0で打ちのめし、2節ギャンガン戦も1−3で大勝、2位のニーム、3位のディジョン、4位のランスと勝ち点タイ(6)だが、得失点差(+5)でトップに立っている。

 華々しく活躍したのは、やはりあの面々。ネイマール、エムバペ、ブッフォンである。

 ネイマールは開幕戦のスコアを開き、ギャンガン戦でもPKからゴール。ここまで2試合で2ゴールだ。一方、鳴り物入りで到来したブッフォンも、40歳ながら2試合連続でスーパーセーブを披露、いまのところ期待に応えている。

 そして、いつも驚愕をもたらす怪童エムバペはと言えば、ワールドカップ優勝で遅れて合流したためカン戦は出場せず、ギャンガン戦も途中出場だったが、なんと投入されるなり試合の流れを一気に変え、2ゴールを叩き入れてチームを救ってしまった。

 ちなみにトゥヘル新監督もまずまずのスタートを切った。多くの主力が不在または故障中だったが、大胆に若手を起用し、19歳のティモティ・ウェアがカン戦でゴール、エヌクンクもいい活躍をみせたからだ。

 だがよく見ると、PSGもまだマシンに油がのっているとは言い難い。初戦で見事な活躍をみせた若手の多くは、次戦で早くも限界を露呈。メルカート閉幕が近づく8月22日時点になっても、左SBとアンカーの補強ができていない。このためトゥヘル監督は、信奉する3バックの本格導入もできず、昨季までと同様4−3−3で臨んでいる。新プレーアイデンティティーづくりも先回し状態だ。

 しかも、議論もくすぶっている。たとえばブッフォンだ。

 ブッフォンのダンディーぶりや人間性には非の打ちどころがないのだが、「アジア向け商業臭が漂う」「40歳を超えている以上信頼しきれない」という懐疑論も後を絶たない一方、「すさまじいCL経験ゆえに大きな力になる」との期待も漂っており、意見は分かれている。

 しかも、やっとトラップとの競争を制したと思ったアレオラがまた正GKの座を奪われるうえ、トラップも第3GKに満足するはずがない。トゥヘル監督は「チームメイトのケガを期待するような」事態は招きたくないとしつつも、まだヒエラルキーを明言しておらず、このままだと火種になる可能性もある。

 だが、それよりなにより人々が好奇の目を注いでいるのは、ネイマールとエムバペの関係だ。

 ネイマールはメッシの陰に隠れるのを嫌い、「チーム王」の座と「バロンドール」を求めてPSGにやってきた。ところが幼稚で横柄な態度を繰り返し、CLで敗退しそうになるやさっさと療養でブラジルに帰国。挙句にワールドカップでも挫折の敗退を喫したばかりか、「ダイブ男」として世界中の笑いものになってしまった。

 対照的にフランスの神童エムバペは、堂々のワールドチャンピオンに輝いたうえ、たった19歳で華々しい活躍をさらり実現、「王ペレの後継者」として世界中から脚光を浴びてしまった。しかも「バロンドール」だってもぎとりかねない勢いなのである。

 もっとも怪童は、「スターになりましたね。ネイマールとの関係はどうなる?」と聞かれても、「仮に僕がスターになっても、ネイマールの方はスーパースターだよ。関係は何も変わらない」と断言、傲慢さをいっさい見せていない。

 ネイマールの方はギャンガン戦前半に、チームメイトに苛立ったり若手を非難したりし、「またか」と懸念を呼んだ。だがエムバペが投入されるや生き生きし始め、エムバペのプレーからPKをゲットしてみずからゴール、次いでエムバペのゴールもお膳立てした。

 いまのところトゥヘル監督は「ヒエラルキーナンバー1=ネイマール」とし、ギャンガン戦をみた限りでは2人のパス連係も好調だ。

 だが、どこまで続くか・・・、である。フランス人のハートはとっくにエムバペに移行しており、ギャンガンではなんとギャンガンサポーターたちがエムバペに殺到、涙まで流していたというから凄い。舞台裏でも怪童はサインに大わらわだった。少なくとも人気面では、ネイマールがエムバペの陰に隠れてしまっている。

 ここにカバーニも戻ってくるわけだ。しかも「エムバペを右サイドではなくセンターに起用すべき」との声も日に日に高まっている。トゥヘル監督の「MCN」采配が、いずれ決定的重要性を帯びてくることだろう。この問題を乗り越えて火を吐く攻撃トリオを実現できれば、PSGはついに「CLベスト4以上」を狙えるかもしれない。

 面白いのはPSGの目標設定だ。「能ある鷹は爪隠す」という意味なのか、今回は悲願のCL優勝を前面に出さず、「常に極めて野心的精神で」「新たなトロフィー群を勝ち取りに行く」(アルケライヒ会長)とぼかしているのである。とはいえ「爪を隠すのが遅すぎじゃない?」とも言いたくなる。国内4冠は当たり前で、進歩を測る秤はCLしかないのだから。

 モナコを撃破し、すでにトロフェ・デ・シャンピオンを制したトゥヘル新監督は、世界制覇したデシャン監督そっくりに選手たちのシャンペン攻撃を受けて歓喜したが、果たして来年の初夏にも同じ光景が見られるだろうか――。(結城麻里=パリ通信員)

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