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【コラム】海外通信員

混沌たる状況 崖っぷちアルゼンチン代表

[ 2018年6月26日 12:00 ]

自らのミスから失点を招いたGKウィリー・カバジェーロ
Photo By ゲッティ イメージズ

 初戦のアイスランド戦で引き分け、続くクロアチア戦では0−3と完敗を喫したことにより、自力による決勝トーナメント進出が不可能な状態となったアルゼンチン代表。ホルヘ・サンパオリ監督率いるチームの行方は26日に行なわれる対ナイジェリア戦、そしてアイスランド対クロアチア戦の結果によって決まる。

 ナイジェリア戦前日の会見で、サンパオリ監督は先発布陣を明かさなかった。その理由は「選手たちにもまだ知らせていないから」というものだったが、アイスランドと引き分けて以来、連日のようにゲーム練習でメンバーを入れ替え、様々なフォーメーションを試してきたサンパオリが、ナイジェリアとの「決戦」を前にして先発メンバーを決めかねていたとしても不思議ではない。

 とにかく、グループDの結果はどのようになってもおかしくないが、その前に書きとめておきたいことがある。クロアチア戦を終えた段階で、アルゼンチン代表をめぐって嘆かわしいことがいくつもあった事実についてだ。

 まず、試合直後のミックスゾーンでのインタビューで、国内の某大手スポーツ専門局のレポーターがセルヒオ・アグエロに「サンパオリは選手たちがプロジェクトに順応していないと言っていたが」と話しかけ、それを耳にしたアグエロが「(サンパオリに)好きなように言わせておけば?」と吐き捨てたことで、一部の主力選手とサンパオリの間に確執が存在することが知れ渡ってしまった。

 実際のところ、サンパオリは試合後の会見で「敗戦の責任は全て自分にある」と語っており、レポーターが言ったような話は一切していない。レポーターが意図的にこのような話を切り出したのか、それとも何らかのミスからサンパオリのコメントを間違えて受け止めていたのかは定かわからないが、もし監督との仲が良好であればアグエロも「まさか、そんなことを言うわけがない」という反応を見せていただろう。ところが彼は、一瞬間を置いてから目を見開き、サンパオリに対する明らかな不快感を示したのである。

 嘆かわしい情報が飛び交ったのは、ここからだった。前述のスポーツ専門局のサッカー討論番組の中で、「選手たちがサンパオリに即刻退任するように促した」、「監督をボイコットする動きがある」、「ナイジェリア戦はサンパオリではなく代表顧問のホルヘ・ブルチャガが指揮をとる」などという、真偽のほどが定かではないことをあたかも事実のように報じ始めたのだ。

 同じ局の番組では更に、ゲスト出演していたリカルド・カルーソ・ロンバルディ(サッカー監督)が、クロアチア戦後の控え室で選手同士の喧嘩があったと証言。それによると、GKウィリー・カバジェーロのミスから失点を招いたことでハビエル・マスチェラーノがカバジェーロを非難し、その行為をクリスティアン・パボンが責めたところマスチェラーノが「お前は黙ってろ、このガキが」と言ったことから怒ったパボンがマスチェラーノを殴った、ということだった。

 アルゼンチンが早くも敗退の危機に直面していたことで世界中のメディアが国内の反応に注目していた時だったこともあり、「サンパオリ退任」、「ブルチャガが監督代行」、「パボン、マスチェラーノを殴打」といった噂は瞬く間に海外にも伝わってしまった。

 また、「待ってました」とばかりにアルゼンチン代表の危機に便乗したのがアンチ・メッシ派のジャーナリストたち。その代表格であるアレハンドロ・ファンティーノとマルティン・リーベルマンは、この時ぞとばかりに心ない言葉でリオネル・メッシを批判したのである。そしてこれもまた、スペインの大手メディアをはじめとする海外のニュースサイトで取り上げられ、「アルゼンチン代表がカオスに陥り、メッシには母国で批判殺到」という、事実とは全く異なる情報が流出してしまった。もちろん、アルゼンチンサッカー界にとっては非常に悪いイメージを世界に広める結果につながり、まだW杯に参加し続ける代表チームにとってもマイナスの影響しか与えない。

 それだけではない。試合が行なわれたニジニ・ノブゴロドのスタジアムでは、敗戦に怒ったアルゼンチン人サポーターがクロアチア人のサポーターに暴行を加えるという事件も起きた。加害者4人はすでにアルゼンチン治安省によって身元が割り出されてロシア国内で指名手配されているが、これもまたアルゼンチンのネガティブな印象を世界中に発信してしまう残念な結果を招いた。

 一連の騒動について、元アルゼンチン代表監督のヘラルド・マルティーノは「誰もが和解よりも争いを求めるというヒステリックなアルゼンチン社会を反映したもの」と語り、同じく元代表監督で御意見番でもあるセサル・ルイス・メノッティは「これほど暴力的に批判するとは痛ましいかぎり。アルゼンチンサッカー界もここまで来たかと思うと恥ずかしくなる」と厳しい意見を述べている。

 例え決勝トーナメントに進出しようとも、敗退した時点で再び騒ぎが起きることはほぼ間違いない。ナイジェリア戦前日の会見でサンパオリ監督は「負ければ我々は犯罪者のように扱われる」と語ったが、4年に一度のサッカーの祭典が人々の怒りに打ちのめされる結果になるのは実に嘆かわしく、残念なことである。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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