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【コラム】海外通信員

歴史的電撃解任劇!物事の進め方は重要 スペイン代表の威厳を誇示

[ 2018年6月14日 19:00 ]

スペイン・サッカー連盟のルイス・ルビアレス会長(右)とジュレン・ロペテギの後任で監督に就任したフェルナンド・イエロ
Photo By AP

 「“誰か”が連盟の“誰か”を連れて行くならば、連盟と話をしなければならない。物事の進め方は重要だ」。元スペインサッカー選手協会会長で、1カ月前にスペインサッカー連盟(RFEF)会長に就任したルイス・ルビアレスは、13日の記者会見でこう口にした。

 最初の“誰か”に当てはまるのはレアル・マドリード、次の“誰か”はスペイン代表監督だったジュレン・ロペテギだ。ルビアレスはロシア・ワールドカップのグループステージ第1節ポルトガル戦の2日前というタイミングで、ロペテギの解任を発表した。レアルがジネディーヌ・ジダンの後任として、ロペテギの招聘(へい)を発表した翌日の出来事である。

 ルビアレスはRFEF会長に就任した次の日に、ロペテギとの契約を2018年から2020年まで延長して、自身が選んだわけではない代表指揮官に全幅の信頼を置いていることをアピールしていた。だがロペテギはその後にジダンが退団したレアルとの交渉で合意。レアルはRFEFに契約解除金(200万ユーロ)を支払うことで、スペイン代表指揮官を招聘(へい)することを発表した。

 ルビアレスによれば、レアルとロペテギのそうした動きを知ったのは、レアルが監督就任を発表する「5分前」であったという。ルビアレスはスペイン代表への影響を考えて「発表することを控えてほしい」とレアルに懇願したそうだが、すでに同チームの選手たちにロペテギが“次期レアル監督”であることは知れ渡っており、時すでに遅しだったようだ。

 レアルの発表を受けたルビアレスはFIFA総会への出席をキャンセルして、スペイン代表の合宿地クラスノダールへとトンボ帰り。その後にロペテギ、スポーツディレクターのフェルナンド・イエロと話し合いの場を持ち、ロペテギ解任という結論を出した。選手たちからは解任するタイミングではないと説得を受けたようだが、それでも意見を変えず、記者会見で「ロペテギを解任する」との決定を口にするに至っている。その会見の終わり頃に語ったのがレアル、ロペテギを“誰か”と称した冒頭の言葉だが、それは抽象的表現から激怒の感情を具現化していた。

 しかし、ロペテギがルビアレスの信頼、RFEFとの契約を反故にしたことを差し置いたとしても、このタイミングでのロペテギのレアル監督就任発表は時宜を得ていなかった。ワールドカップ開催中、ロペテギの選手の起用方針やその言動が“次期レアル監督”の色眼鏡から見られることは必至。ポルトガル戦であれば、ロペテギとレアル退団が噂されるクリスティアーノ・ロナウドも否応なく結び付けられる。ロペテギが“次期レアル監督”となったことで、今までは存在するはずもなかった話題の種が振り撒かれ、チームの集中を逸らす要因になってしまう。

 RFEFはロペテギ解任の数時間後に、イエロを監督に据えてワールドカップに臨むことを発表。イエロは就任直後、「ここまでの2年間の仕事に手を加えはしない。私は日々にわたってチームのそばにいたし、選手たちにはこれまでと同じ選手たちであり続けることを頼みたい」と語った。

 確かに、スペイン代表には世界トップクラスの選手たちが揃い、ロペテギが「ボールを支配することこそ自分たちのスタイルと定めたのは、スペインという国自体にほかならない。ポゼッションを好む選手たちを集めた方がスペインは確実に強い」」とかつて話したことがあるように、確固としたプレースタイルも有している。ここからは未曾有の出来事を選手たちがどのように消化して、イエロが彼らをまとめ上げられるかがが鍵となるだろう。……しかし今回の出来事は、スペインが代表チームをサッカーの主軸とせず、代表と成熟したクラブ文化という両軸が存在する国であることを改めて印象付けている。レアルはスペイン代表に敬意を払うことなく、RFEFはスペイン代表の威厳を誇示したのだった。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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